「沖田さん!」
「あれ?斉藤さんじゃありませんか?」
第三の人物が、二人の戦闘の現場に現れた。
「言わんこったない、やはり探して正解だった」
「ちっ、邪魔が入ったか」
斉藤といったので、だぶんあの斉藤 一であろう、新撰組3番隊隊長の斉藤 一。
こいつもかなりの刀の使い手だという。
一晩に二人も、新撰組の有名人を相手するのはしんどい。
「斉藤さんすいませんが、貴方は戦闘に入ってこないでください」
斉藤が自分の刀へと手を伸ばそうとしているのを、沖田が止めた。
「はぁ?何言っているんだ、沖田さん」
「これは、私と彼女の戦いですから、楽しみを奪わないでください」
楽しみを奪われそうになった子供のような表情をして、沖田が斉藤に殺気を送る。
背筋が凍りつき、斉藤は唾をのむ。
もし邪魔したら、沖田に殺されるのではないか、と一瞬本気で思った程だ。
「何を仲間内で揉めている?」
刀に力を入れて、沖田を押しのける。
それから、刀の突きをフェイントで見せかけ、死角から蹴りを入れたが、なんなく沖田にかわされた。だが、次第に沖田を
追い込んでいく。
押していき、勝負は見えたと思われるが、焦りは積るばかりだ。
どう攻撃しても、相手にダメージは与えているのに思った程の手ごたえではなく、しかも、沖田は反撃してこない。
―何か、企んでいる?
白銀の絹のような髪は風に躍らせる。
沖田を追い詰める程、膨大に膨らむ不安。
「くそ」
おきたの刀を弾き飛ばし、今度は蒼目の暗殺者が沖田に蹴りを食らわし、地面に倒す。
「沖田さん―!」
斉藤が叫ぶ、だが、沖田が人質のような立場になり手が出ない。
「チェックメイトだな、日本の場合は王手と言うのか?」
その時、長々と雲によって隠れていた月が姿を現し、鋭い三日月の光が地面に突き刺さった沖田の愛刀を照らす。
鏡のように反射したその刀は、今の現状を映し出す。
「まさか、自分から死を選ぶとはな」
冷酷な声で、今から殺す沖田を嘲笑って言う。
「確かに、貴方に殺されなくても、斉藤さんが黙ってくれなければ掟により切腹ですね」
どこか他人事のように言う沖田は、相手の刀が喉元に数センチあることを確認すると、幸せそうに言う。
「あぁ、本当に切腹ですよ。
なんせ、私は今自分を殺すであろう貴方の美しさに目を奪われ、何も考えることができなかったのです」
頬に触れられ、次に長い髪を手に絡めて言う沖田が、今までに出会ったことのない類の危険である―と感じられた。
言っていることの意味がわからなかった。
自分が美しいだと?
いつも世間から憎まれ、忌み嫌われて、負の感情しかなく、闇に生きていくことしかできなかった
自分を美しいとは思う奴はいなかった。
いるとしたら、よっぽど脳みそが腐っているか、目が悪いかしかない。
「アンタ、脳みそ大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですけど?今なら、女性に恋焦がれる気持ちが分かるような気がします。
貴方のためなら、私は死んでもかまわない。さぁ、私を殺してください」
にっこり幸せそうに微笑むと、静かに目を閉じる。
そんな奴を見ると、気持ち悪さが込み上げる。
そして、何だか顔が熱い。
「あぁ、お望みなら死んでもらおうか?我もその方が助かる」
刀を大きく振り上げると、そのまま急所に向かって迷いなく振り下ろした。
何故、胸が痛くなるのかは、わからない。
沖田の同僚が煩かったが、全てを無視して刀を振り下ろした―
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