黒猫が鳴く時刻は、青眼の暗殺者が闊歩し、今日もこの混乱した世をさらに混乱へと導く―

 どこかの家の子が唄っている。

「本当に世間に知られてしまったな。まったく、上の方も次から次へと名の知れた者ばかり、

我に殺せと言ってくる。しかも、今回は新撰組一番隊組長の沖田 総司―」

 奥歯を噛み締め、昨晩の失態を呻く。

 ずぎずぎずぎずぎと肩が痛む。

 この痛む肩は、やつを殺さなければ鎮まるころができないようだ。

 昨晩は駄目だったが、今日こそ殺してやる。

 今まで、鬼の子と人間を否定されてきた外見を見たことを―

「後悔させてやる」

 青眼の暗殺者と呼ばれているらしいが、自分から名乗ったことはない。

 そもそも暗殺者は人を殺すのが仕事、本来ならば姿を見たものは死んでしまい誰もいない。

 だが、夜道を通った町人が、たまたまその現場を目撃する。

 害のない町人等は、斬っても無駄で逆に斬ることで立場を危なくすることがある。だから、見逃す場合が

ほとんどだ。

 片方の目がたまたま青眼だった。

 それだけで、印象が強く噂はたちまち広まる。

「そういえば、ここの国の人間は青眼がいなかったよな」

 そう、日本国民の遺伝子には、青眼になる要素がない。あるとしたら、純粋な日本人ではないという証。

 それだけで十分、冷たい目で見られ、避けずまれ、不吉という烙印を貼られる対象だ。

「人と違うモノを持つのは、大変なことよ」

 そうつぶやいて、空を仰ぐ。

 月は雲に覆われ、明るい場所がどこにも見当たらず、ただただ闇が広がっているばかり。

 その闇でも目が効くのならば、闇に生きているからだ。

「みぃーつけたぁー」

   背筋がぞくっとした。

 素早く振り返り、刀を抜いて構えた。

「この夜中に、灯篭も持たずかくれんぼか?新撰組1番隊組長 沖田総司―――――!!!!!」

 建物の柱の死角から出てきた、憎き相手は、人のよさそうな好青年だ。

 今日の獲物―

「うんうん、かくれんぼかな?青眼の暗殺者さんが隠れて、私が鬼ですか?とても楽しそうですね」

 沖田はにこにこしながら、近づいてくる。

 昨晩とはまた違う、得体の知れない不気味さが今晩の沖田には感じられた。

 ジリジリと相手の出方を伺ってみる。

「あれ?今日は私を殺すのではないのですか?」

「何故、それを知っている!?」

「あ、当たったー。さすが、斉藤さん」

「しまった―」

 推測で物を言った相手に、まじめに答えてしまった。

 どうも、こいつを相手にすると調子が狂うらしい。だが、これも今日までだ。

「来ないなら、私から行きます」

 宣言して愛刀を抜いた瞬間、今まで人がよさそうな感じだったのが、一変して変わった。

 否、変わったのではない。

 人が良さそうなままで、昨晩よりも何倍も増したすざましい殺気をまとったのだ。

「くっ―」

 殺気だけで、負けてしまいそうになる。

「お相手、お願いします」

 一歩力強く踏み出し、沖田は一気に青眼の暗殺者へと間合いを詰める。



 キィィィィィ――――――――――ィィィィン



 鉄の甲高い音が空気中に響かせ、刀と刀がぶつかり合った。

「我が負けたら殺すのか?」

 自分の信念を賭けて、負ける気がしない。だが、負けたらどうなるか興味があった。

 普通は殺すが、新撰組ならどうするか?

「んー????あぁ、尊王派なら連れて帰らないと、

たくさん聞きたいことがあるって土方さんが言ってましたっけ」

 なるほど、ようは拷問して秘密事項を聞き出そうという魂胆なのか。

「残念だが、尊王攘夷派ではないし、何でもない。ただ依頼をこなすだけ」

 拷問しても、多少情報は深く知っているが、重要なことは知らない。

「拷問しても何も出てこないぞ」

「ふぅーん?まぁ、どうでもいいのですけどね。ただ、貴方と刃を交えたいだけですもの」

 子供の無邪気さと残酷さが入り混じっているような、楽しくてしょうがないという表情。

 刀を交わしては相手に斬りつけ、斬りつけては刀と刀がぶつかり合う。

それの繰り返しをしながら、沖田は会話を続ける。

「ねぇねぇ、姿全部見せてくれませんか?どうせ、昨晩知った仲じゃないですか。

今更隠さなくてもいいじゃないですか?」

「我の姿は見世物ではない!」

 うぉぉぉぉぉぉぉ―

 自分の姿が物珍しいからと言って、見世物小屋へと売られた昔を思い出すと、

腹のそこからぐつぐつと煮え立つ思いが沸き起こる。怒涛の声をあげ沖田にめいいっぱい斬りつける。

「えー、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか」

 剣を交わしながら、沖田は自分の刀を水平に構えた。

 三段突き―

 沖田の得意業

 沖田から十分に距離をとるが、相手は無造作に地面を蹴ると突進し追いかける。

「くそ、昨晩の二の舞になるか!」

 おきたの第一の突きを見極めると、後ろへと地面に手がつくまでのけぞる。

 そうすると、後回転の動きのような蹴りを沖田の肩にくらわせると、そのまま後へと飛び十分間合いをとる。

「軽業師みたいですね」

「刀だけではない」

 いつの間に斬ったのか、深く被った笠が、はらりっと落ちる。

 同時に、長い白銀の髪が風に舞った。

「美しい―」

 生き写し人形のような、この世の者とは思えないとはこのことをいうのだろう、美しい女性だと沖田は思った。

 今、沖田へと刀を向けているのは、悪霊に憑依されているためであって欲しい。

美女に刀を向けられるのは、初めてなのだ。

「お前は―、棺おけに両足を今突っ込んだぞ」

「やる気なのですか?」

 何故か、やる気をなくした沖田を、鋭く睨みつけると刀を構えて地面を蹴った。

「そういえば、どこかでお会いしませんでしたっけ?あーっと…、昨晩を抜かして」

「何を寝言を言っておる、お前とは昨晩と今しか会っておらん」

「なーんか、似ているのですよ」

「知らんな」

「んー、何でかな?その他で会ったことがあるような気がします」

 その真剣な目に、青眼の暗殺者は一瞬たじろいだ。

 沖田はその一瞬を見逃さない。

 瞬時に、青眼の暗殺者を壁に押し付ける。

 壁に押し付けられパニック状態に陥るが、すぐさま沖田を睨みつけ威嚇する。

 だが、顔がほんのり赤いのは気のせいか。

「やはり田舎者は野蛮だ」

「野蛮ですか?今度、土方さんに言っときますよ。土方さん流に言えば、女性と話しをつけたいときは押し倒すそうです」

「女性と接する時の仕方を、どんな馬鹿に教わったが知らんが、これは間違っている!」

「そうですね。今実際、実行してみてわかりました」

 悪気がなさそうに軽く言うから、余計に腹が立つ。

「このぉー」

 顔のすぐ右側の壁に手をついてい沖田の左手首を、怒りを込めて思いっきり噛み付く。

「いた―っ」

 痛みで身を引いた沖田の腹に、追い討ちをかけるかの如く蹴り上げる。

「げふっごふっ」

 ダブルの痛みに数歩引いて腹を抱える沖田を見下し、勝利の笑みを妖艶に浮かて言った。

「思い知った?火遊びするとこうなるのだよ、坊や」

「…っ、坊やってあまりにも酷いですって、たぶん貴方と歳変わらないのではないでしょうか?

あと、火遊びのつもりで接してないつもりですが」

「あっそう」

 もう、余裕がなかった。

 形勢逆転したが、相手はあの新撰組の中のトップの腕前であり、さらに人のペースを狂わすのがうまい。

 地面に転がった刀を素早く拾うと、地面を蹴り沖田へと切り込んでいく。

 まだ痛みに蹲りたいはずだが、さすがは新撰組1番隊隊長、痛みを無視し刀を構え直し、垂直にしむかってくる。

 そして、お互いの刀がまた交わる。







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