春の日が激しくなりつつある、朝の光は真里にとっては、まぶしかった。

 他人と違ったことを持っているために、あまり外にはでないので外を見ると眩しい。

「真里、いつまで寝ているのですか」

 部屋の襖を勝手に開けて、兄の次乃十が入ってくる。

「寝てませんよ、私は2階の窓から人々を見下しているのですわ」

「何!その、斜め上を行く性格は!?ごほんっ、兄はそんなふうに妹を育てた覚えはない」

「えぇ、兄は私を育ててません。正確に言うならば、父母です」

「ぐはぁー、兄は傷つきました」

 妹馬鹿な次乃十は、真里の言葉に大きくショックを受けたという動作をし、泣いた。

「嘘だとわかってます。嘘泣きの兄は阿呆っぽいですからやめて下さい」

「うわ、いつから真里は淡々とした性格になったのですか?兄は寂しい」

 春らしく、若葉色の着物の飢えに、白い衣、医者である次乃十はやさしく、誰にでも好まれる青年だ。

 妹馬鹿ではなければ、今頃結婚していて、幸せな家庭を築いていてもおかしくはない歳だ。

 そのため、こういうやりとりを毎回していると、兄の行動があきれてくる。

「ところで、私に何か用事があったのでは?」

「あぁ、そうだそうだ」

 用事があるたび、脱線した会話を繰り広げているので、愛美が話しを戻さないと、いつまでたっても続くのだ。

 用事のことを問われた兄は、顔を輝かせてにっこり笑う。

 そういうときは、兄にとって好ましい人物の来客を意味する。

「今日は、近藤さんが遊びに来るのですよ」

「何しに?」

 嫌な顔を兄にばれないようにした。

 近藤といえば、京の治安を守るため、会津藩主で京都守護職の松平 容保が設置した、新撰組というやさくれ集団と

巷で囁かれている集団のトップだ。

 日々、過激派尊王攘夷論者や不逞浪士の取り締まりを行っている。

「兄は近藤さんと仲よしだから、来る理由に何もありはしないですって」

「理由もなく、家に遊びに来るほど、新撰組のお偉い方は暇なのですわね」

 窓の外を眺めながら、皮肉をいう。

外では、京の都に不似合いな色で埋め尽くされていた。

「ださい…」

 浅葱色は、お洒落な人々にとっては、田舎者という印象を強く持っている。

 そのため、悪い印象が強い。

「いつも家の中ばかりだから、体に悪いと兄は思うのです。

なので、可愛い真里さんに来客用のお饅頭を買って来てもらおうと思ってます」

「はぁ!?」

「人とは違うからって、甘やかしては駄目だと言いますよね?

兄は、妹を一応甘やかさないようにしようと思っております。さぁ、お饅頭を買って来てください」

 お饅頭代を愛美の手に握らせ、次乃十は鼻歌を歌いながらさっさと部屋を出て行った。

 これ以上、真里と話せば、結局負けて甘やかしてしまうと思い、さっさと部屋を出たのだろう。

「あぁ、この日差しが強い外に出なくてはいけないの?」

 真里は理由があって、あまり外に出たくないのだ。

 右目は眼帯で覆われている、不自由だからだ。

 視界が狭いし、京の都は人が多い上に、今は日本の将来をかけて色々な争いが絶えず、京が集中的に物騒なのだ。

 巻き込まれることも数知れず。

 だから、外に出たくないのに、とぶつぶつつぶやいて、重い腰を上げて愛美は外へと出かけた。

 踏むとギシギシと響く階段は、玄関へと直接つながっている。

 玄関は天気がよいため、空気の入れ替えをしようと兄が戸を開けたままにしていたらしく、

その戸から光が広がっている。

 あぁ、本当に目にはよくはない。

 愛美は眩しすぎて、目を細めつつ外へと出かけていったのだった。







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