プロローグ




斉藤は、信じられない光景を見た。

 剣の天才と誰もが認める男、新撰組一番隊隊長の沖田総司が、白銀の髪の女に押し倒されている。

 日常の沖田を見れば、女に押し倒されてもおかしくはない人柄だ。

 だが、今は黒く光る鞘から、菊の模様が刻まれた愛刀を抜いている。

 鞘から剣を抜き、相手に斬りかかる沖田の様子は、日常と比べ豹変し、まるで鬼のようなのだ。

 その沖田が、今ちまたで噂されている青眼の暗殺者相手でも、無敵なはずである。

 だが、実際の現状は、白銀の髪の女が、絹糸のような髪を風に躍らせながら、沖田を追い詰める。

 華麗に、美しく、人を殺すことを芸術にするかの如く、人を殺すことの醜さ、残酷さ、汚さを微塵とも感じさせない。

 もしかすると―

「沖田さん!」

 沖田の愛刀がはじきとばされ、少し離れた地面に突き刺さる。

 その時、長々と雲によって隠れていた月が、姿を現す。

 鋭い三日月が、地面に突き刺さったおきたの愛刀を照らし、反射した刀は今の現状を鏡のように映し出す。

「王手だな、日本の場合は王手と言うのか?まさか、自分から死を選ぶとはな」

 冷酷な声で、今から死刑にする沖田を嘲笑って言う。

 沖田は女に何か言うと、相手は顔を赤くしてキッと沖田を睨んだ。

 片方の目が青眼という特徴を持つ両目を大きく見開くと、刀を振り上げた。







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