数日前。

 どこを向いても一級品の家具に囲まれ、眩い光が放たれている部屋にコーディアスはいた。

 芸術品を保管している倉庫にように芸術品に囲まれているような空間が、苦手なコーディアスは息苦しく感じて溜息をつく。

 おまけに禁煙ときている。  

「あ〜、煙草吸いて〜」

 そう呟いた時、分厚い本の角で頭を思いっきり殴られる。

 目が飛び出そうになり、痛みで涙が出た。それでもって、頭から星が回っていそう。

「何をするんだよ!」

「人の話聞いてました?」

 神が天使に与えるはずだった顔立ちを替わりに与えてもらったような、完璧で芸術的な顔立ち。

色素も素晴らしい。黄金色に輝く髪を肩まで伸ばし、瞳は翡翠のような色ときた。

 このように、外見が完璧ならば中身も完璧である。

 神に仕える者としての自覚はコーディアスの何十倍もあり、使命感に燃えている。

それでもって、能力も素晴らしい。神に与えられたのは、予言する力だ。

数世紀前までは、魔女として汚名を着せられるであろう能力だが、この外見と潔癖なる信仰心に人々は疑う余地すらなくなるらしい。

予言内容も人々の役に立つものばかり、予言の確率も高い。

 地上の天使だの翼のない天使だの予言する聖者だの様々な呼び名をつけられている。

が、コーディアスは何故かコイツが胡散臭く思えてしょうがなかった。

 確率的に低いが世の中血眼になって探せば、このような顔立ちの者は他にも数名いるだろう。

予言だって、同じ能力があるヤツを数人は知っている。潔癖な信仰心はキリスト教信者ならでわの事である。

広い視野で物事を判断すれば、特別なことは何もないのである。

 ただ、少々特別な顔立ちと能力を持った人間が、たまたま運よく特別な庇護を受けているだけにしか思えない。

騒ぐ必要も何もない。

 コーディアスの不運は、コイツの下についている事である。  

「残念ですが、今回はアレの関与率は低そうです」

 資料を見ながらコーディアスは、軽く舌打ちをする。

「駄目じゃないですか。神父は品行良くしないと」

「関与率低いなら他に回せよ。エクソシストなんて、俺以外にも沢山いるだろ?」

 コーディアスは神父でありエクソシストだ。

 だが、好きこのんで神父になったわけでもなくエクソシストになったわけでもない。

 運悪く奇怪な事件に巻き込まれ、不可解な身体にされてしまったのが縁である。

 不死身の身体に時々見せる悪魔化。そして、たまに血を吸いたい衝動に駆られる。吸血鬼にもなったような、不可解な身体。

 身体を治すべく、神父になりエクソシストになった。

というよりも、キリスト教側がコーディアスを監視したいがために、強制的に神父にさせエクソシストになったともいえる。

 コーディアスが毎回追う事件は、身体を治す手がかりがありそうな事件だけ。

のはずなのだが、どうやら便利屋として働かされているような気がしてならない。  

「関与が低いと思われますが、ただこの関連は貴方の専門だと思いましてね」

「資料見せろ」

 相手の手から資料を奪って読む。

 資料によれば、今回の仕事は悪魔払い。

「もしかすると、悪魔憑きじゃないかもしれない? なんじゃそりゃ、事前に調べろよ」

「今確立しつつあるじゃないですか、精神病。どうやら、悪魔憑きと思われる人は精神疾患と判断されるらしいですね。

ですが、知り合いに相談したところ悪魔憑きでは? と言われたので大変心配になったということです」

「霊感が無い人間には区別できないからな。だが、知り合いに相談して悪魔憑きと指摘されたくらいで心配になるものか?

 科学が発展してきている時代、一般市民は悪魔憑きという非科学的なモノを迷信と片付けはじめて来ている。

科学的に精神疾患と指摘されたのにだな。おかしいじゃないか? 

科学的な判断より非科学的な判断を信じる依頼人は、熱心な信仰者か?」

 相手が顔を曇らせて、首をかしげた。

「依頼人が熱心な信仰者で、科学的な方法よりも我々を頼ってきたのならば嬉しいですよ。しかし、真相はどうなのでしょうか。

熱心な信仰者だから我々に頼ってきた。それとも、何か心当たりがあるから頼ってきた。私は、後半のような気が薄々感じます」

 相手が薄々感じる時、予言能力の発揮する始まりなのだ。  

「いいえ、次第に何かあるような気がしてたまらなくなりました」

 コーディアスは頭痛がしてきた。

 相手が予言を述べる最中に、コーディアスは特有の頭痛に見舞われる。

 それは、悪魔憑きのコーディアスが神の能力に触れているから起る身体の不調かもしれない。  

「何かありますね」

「あっても、今回はパスだ。パス。大したことなさそうだし、めんどくさい」

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