透き通るような青空は、昨日の事が嘘のように静かにユーロ国を覆っている。

 城下町の人々は、昨日の混乱を気にしよからぬ噂を立てる。だが、そんな噂もすぐに収まることになる。

 ユタカの命にて、昨日の出来事の詳細を隠さずに国民に報告した。

そうすることで、勝手に捏造された噂は事実により消えるだろうと予測を立てたからだ。

 それともう一つの企みとして、今後シャーハットのような輩を出さないためだ。

現れても、王が早急に制裁を下すぞ、という脅しでもある。  

「はぁ〜。一難去ってまた一難」

 羅愛は窓の外を見ながら、深いため息をつく。

 大祭日は、混乱を経て無事に当日を迎えることができた。

 羅愛は、めでたい日を迎えたにも関わらず憂鬱だった。何故ならば、自由に動ける状態でなかったからだ。

 目を覚ませば、消毒臭い部屋のベッドで横たわっていた。

自分の置かれた状況が把握できずにぎょっとし、跳ね上がった瞬間の激痛は言葉にならない。

全身は、包帯ぐるぐる巻きのミイラみたいになっていた。

 ユタカが言った羅愛の身体の現状は、肋骨を2本骨折、全身の打撲、飲み込んだ異物の除去、切り傷かすり傷。

昨日の戦いの凄まじさを物語っている。

 怪我のことは、どうでもよかった。

 憂鬱な気分にさせるのは、別な理由から。それは、消毒臭い部屋で暫く過ごすこと。

 羅愛は、医療施設が大嫌いだ。

万年健康児の羅愛には無関係な所であるため、そういう場所はなかなか慣れないというのも一つの理由だ。

だが、最大の理由は、消毒臭さと陰気臭いという事。今も、この室内の臭いと雰囲気に気分は沈んでいる。  

「羅愛ねーちゃん、元気出して! 僕アップルパイを作ってきたよ」

 部屋には、ユタカを覗くいつものメンバーが揃っていた。ユタカは、大祭日と昨日の事件の処理にて多忙中である。

 ジャスが、バスケットからアップルパイを取り出して、ベッドに取り付けられているテーブルに置く。

 リンゴの良い匂いが消毒の臭いと重なった。良い臭いなのか嫌な臭いなのか、微妙な臭いになっている。

 だが、空腹には適わない。

「ジャス、羅愛は暫く物を食べられませんよ。術後の経過を見ている最中なのですから」

 マリアが意地悪い笑みを浮かべて、羅愛に餌を与えようとしたジャスを咎めた。

「アタシは元気だ!」

「ユタカお兄様に怒られちゃうからね」

 ティンクルも止めに入る。

「いいもーん。アタシの意思だもーん。それに、治ったもーん」

「ミイラみたいな奴が言っても説得力ないぞ」

 カイが笑って指摘する。

「ミイラ! 言えている」

 カイの例え方が笑えるのか、解が腹を抱える程笑っている。

「失礼な。好きでミイラになったんじゃない! こんなの大げさなんだよ。

もう、包帯ぐるぐる巻きにして、アタシを蒸し焼きにして殺す気か! 

アタシを殺すなんて言ったのは、演技じゃなくて本性からだな? 近いうちに、アイツに殺されるぅ〜」

「包帯ぐるぐる巻きになっている人間が、蒸し焼きで死ぬなんて聞いたことがない」

 ここにいるわけがない人物の声がし、羅愛はぴたりっと動きが止まった。

「ユ、ユタカ!」

 本物の王様を呼び捨てにするは如何な物かと思うが、「様」「王」付けをすると口が痒くなる。

 何故か、羅愛には敬語は不向きなのだ。

 ユタカは、ドアの前に医療器具を乗せたトレイを持って立っていた。   

「蒸し焼きになった人間第一号になるか? きっと、永遠に語られるぞ。間抜けな死に方をしたってな」

「ま、間抜け!? し、失礼な」

「ぷっ、間抜けだって〜。でも、蒸し海老のような死に方は間抜けだよなぁ? カイ」

「確かに〜」

 解とカイが腹を抱えて笑っている。

「憎ったらしいわ、他人事だと思ってさ。包帯って本当に蒸れるんだからね!」

 解とカイを睨みつけると、ユタカが持ってきた医療器具が気になった。

「注射は嫌だからな。それと、飲み薬は粉にしてくれ」

「お前は、子供か?」

 ユタカが呆れた顔でこちらを見たが、それを無視して要求を続ける。

「お腹が空いたぞ。蒸し焼きになる前に餓死で死にそうだ。いい加減に、何か食べていいか?」

「昨日は偽物の賢者の石を丸呑みしたのに?」

「それは、ユタカが勝手に手術して胃から出しただろ! 今のアタシの胃は何も入ってない」

 ユタカといがみ合っていると、ジャスがおかしそうに笑う。

 何がおかしいのだ? と睨みつけてやると、ジャスはこう言った。

「いつもの仲良しの二人に戻ったみたいで、良かったと思ってさ」

「これのどこが仲がいいんだ?」

 羅愛は、不思議そうに問い返す。

「「喧嘩する程仲がいいってこと」」

「むむっ、嫌だね。こいつは、アタシを殺そうとしたんだもん。許さないね」



   

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