頬を膨らまし、そっぽを向く。すると、ユタカにデコピンをされた。 「いたっ、何するの」 「まだ、根を持っていたのか? まったく、お前はいつまでたっても子供だな」 ユタカが深い溜息をつきながら、注射器を手に取る。 「打たれたくなければ、少し静かにしろ」 「脅しですか! あの夜から性格が悪くなったわね。わわわわ、解ったから打つ用意するなっ!」 羅愛は枕を持った。盾にするためだ。 「そういえば、ユタカ」 カイが思い出した声を上げる。 「何だ?」 「そろそろ、今回の裏話を話してくれないのかな?」 「そうそう、どうなってますの? 第三遺言書では羅愛お姉様が王だと書いてあったのに、第四遺言書はユタカお兄様と書いてあったり。 結局、羅愛お姉様はなんですの?」 ティンクルが腰に両手を当てて、ユタカに問う。 「アタシか? アタシは単なる替え玉だよ。 必ず"賢者の石"を狙う何者かが反乱を起こすと、先代は予測していたんだよ。 それがさぁ、本当の王が敵内部に潜入して美味しいところ取っちゃうなんて、アタシの役目の意味がないよねぇ〜」 羅愛は、なんとなくムカついてユタカに枕を投げた。 それを、なんなく受け止め、ユタカは溜息をつきながら羅愛の話に反抗する。 「最初から最後まで、暴走していた奴が言う台詞じゃない。 替え玉らしく大人しい王様を演技していればよかったのに、冷や冷やさせる」 力を幾分か強め、ユタカは羅愛に枕を投げ返した。羅愛は、両手で枕をキャッチする。 「何よ。アンタが最後まで大人しくしていればよかったの! まったく、シャーハット側についちゃってさ。爺が趣味だったの?」 羅愛が思いっきり枕をぶん投げた時、マリアが枕を受け止めた。 「お二方、いい加減にしてください。物に八つ当たりするのはよくありませんよ。 それと、さっさと説明よろしくお願いしますね」 マリアは二人に笑みを向け、注意をした。 笑顔だったが、マリアの目は、怒りに染まった目であった。静かな怒りとは、このことを言うのかもしれない。 「えーっと……。何を聞きたいのやら」 「羅愛ねーちゃんが偽物の王、という計画は先代が作ったの?」 「そうだ。そもそも、アタシたち先代の養子は、次期王の替え玉役を探すための目的だったのだよ。 先代は子供好きだけど、それだけでは沢山子供を拾ったりしないよな。 あと、憶測だけどね。たぶん、ユタカを養子だと周囲に知らしめるためだったんじゃないかなぁ。 この憶測は合っているか? ユタカ」 羅愛は同意を求めると、ユタカは頷いて言った。 「ちょ、ちょっと待ってよ。ユタカって先代の本当の子だったんか?」 「おいおい、今更何を言っているんだよ解。オレは怪しいと思っていたんだぜ。 先代の一番目の養子ってところが怪しくないか? オレはやっぱりなぁ、と思ったんだ」 「カイは鋭いな。実はな、これは一部しか知らない真実なのだが、王の血筋じゃなければ"賢者の石"は扱えないのだ。 "賢者の石"を扱えないことには、この国の王にはなれないからな。 ユタカが真の王なんだから、先代の血の繋がった子であろう」 「羅愛の言うとおり、"賢者の石"は王直系しか扱えない。 だから、俺は先代と血が繋がっている。 だけど、皆に勘違いしてほしくはないのは、先代とは血が繋がっていないけどお前らも愛された本当の子だということ。 決して間違えないでほしいのは、お前ら養子が替え玉役を探す目的だけではない、ということだ。 それだけは知っていて欲しい。勘違いされたままでは、先代も浮ばれないからな」 ユタカの話を聞き、静かになった。 それはきっと、お世話になった先代をそれぞれ思い出しているからだ。 羅愛は、親の借金でどうしようもない人生を送っていた中、 ユタカと最悪な出会いをしたのをきっかけに先代に養子として迎えられたのだ。 マリアは、国の外れで宗教狩りに合い両親を目の前で処刑され、 自分も殺されそうになったのを先代に助けられたのだ。 解とカイは、双子が不吉であるという村の風習により、生まれた時にサーカスに売られた。 サーカスでは、奴隷のような生活を強いられた最中に先代が助けたのだ。 ジャスは、天才ゆえに何でも出来てしまうつまらない人生を終止符を打つため、 自ら死のうと実行した所をたまたま散歩中の先代に止められる。 ティンクルにいたっては特殊だ。ティンクルの祖父が先代に仕えていたために、 子供の時から城の下働きをしたいたところを気に入られたのだ。 「暗い過去から自分達を救ってくれた先代を、どうして勘違いしようか? 我が子のように可愛がってくれた先代だから、アタシは利用されて替え玉役になってもいいと思ったんだよ。 ユタカも、勘違いしないでね。皆、先代には恩があるんだ」
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