部屋の光景は、シュールのような光景だった。 羅愛はその光景を眺めて、そして唸って頷いく。 「いやいや。化け物に組み敷かれる美青年、というのも悪くはないねぇ〜。マニアック受けこの上なし」 場違いな感想を呟く。 シャーハットが、忌々しく羅愛を見て問う。 「我々を成敗しに来たか?」 「そうだね。成敗というよりも、逮捕と言って欲しいかな? まぁ、抵抗するならば殺すけどねぇ〜。自首するならば、今よ」 羅愛は、のんびりした口調で問い返した後、ユタカをチラッと見る。 ユタカは、蛇のように細長い人工腕に首を絞められ、窒息死寸前であった。 羅愛は、腰に下げてある刀を素早く抜く。そして、地面を蹴る。 キィィィ――ン 金属音を切るような甲高い音が響き渡りる。 「なっ、硬化質物で作られた腕を斬るなど、どういう刀の作りをしておるんじゃ」 シャーハットは、驚きのあまり目を見開いた。 「別に刀が特別なわけじゃなくて、アタシの剣術レベルが凄いのだ」 羅愛は、胸を張る。 「師匠の教えでは、気合を入れれば斬れないものはない! らしい。ところで、ユタカは生きているか? 死んでいるか?」 「げふっごほっ……、い、生きてる」 人工腕から解放されたユタカは、喉を擦りながら起き上がる。 ユタカの首には、くっきりはっきりと痛々しく手の形が赤くついている。 「ふ〜ん、割としぶといのね」 羅愛は、刀をシャーハットに向ける。 「仲間割れしても、アンタ達両方反逆罪で逮捕なのよね。観念して、大人しく捕まってきなさい」 「お断りじゃのう」 シャーハットの背中から、また数本の腕が生えて羅愛へ攻撃をしかけてくる。 「仏教の手がいっぱいある仏像みたいだわさね!」 羅愛は、ステップを踏むような華麗な動きでかわしきる。だが、無数の腕達に悪戦苦闘しているも事実だ。 数に勝る物はなし、とはこの事だ。 背後から何か飛んでくる気配がした。右に飛ぶと、数本の短刀が無数の腕の何本かに羅愛の代わりに刺さっている。 「ユタカ! アンタどっちを殺したいんだ? いや、両方なのはわかる。だが、二兎追う者は一兎も追えぬぞ!」 「隙あり、というだろう?」 無数の腕と格闘中、隙あらばユタカにも狙われかねない。 羅愛は、背後からの攻撃を防ぐため、壁に背をつけた。壁から手が出てきたのは、その時だった。 怪奇な出来事に驚くと同時に、一回前転し間合いを取る。そして、伸びてきた手を刀で瞬時に受け止める。 甲高い硬音の音。それから、何かがポッキリ割れる音が響き渡る。 「しまった……」 羅愛は、額から冷や汗が出る感覚がした。それから、全身の血が抜けるような感覚。 長年の相棒だった刀が真っ二つに折れたのだ。 これは、伸びてきた手を受け止めた時、羅愛が慌てて真正面に止めたのが原因だ。 刀というものは、"力"を受け流さなければ折れるものだからだ。 「自分の不注意で刀を折っただけに、しおれておるのかね?」 「笑わせるわ。アンタの趣味の酷さにはね」 刀が折れても、この戦いはまだ終わってない。 獲物がないくらいで、羅愛の方が降参というわけにはいかない。 羅愛は折れた刀を右手で握り直し、ポケットから折りたたみ式ナイフを取り出し刃を出して左手に握る。 戦いは気合と根性だ! と、師匠は言っていた。 得物が壊れても、気合と根性で足りない部分を補えば勝利できると、羅愛は信じていた。 羅愛は両手を軽く構えた。地面を強く蹴り、シャーハットに向かって電光石火の如く突進をする。 「アンタの弱点は、身軽じゃないってことよ! そんなもの沢山生していれば、身軽じゃなくなるのも当然だけどね」 「くっ、小娘が――」 シャーハットは焦っている。 無理もない。手が沢山生やしていても、身体が重たくなるだけだと理解できなかったらしい。 体当たりをしかければ、あの成りならばかわすことが不可能に近い。 何十本の腕が羅愛に集中して向けられる。その気持悪い腕を巧みにかわす。 シャーハットとの距離が近くなり、あとわずかな距離まで縮む。 シャーハットの悲観めいき焦りの濃くなった表情がよく見える――瞬間に、口元が上がり三日月の笑みを浮かべていた。 何か企んでいるのか? と、訝しむ暇もなかった。 何故ならば、長い髪がぐいっと引っ張られたのだ。痛さに逆らえず、引きずられ壁に強く叩きつけられる衝撃がきた。 「ぐはっ」 背中に鈍く深い痛みが走る。 ズルズルと床に倒れるが、また引きずられる。髪の毛が抜けそうだ。 反対側の壁にも叩きつけらた時、羅愛の口から血が飛び出た。 「肋骨を何本かいったかね?」 シャーハットに、意地悪い笑みを浮かべながら聞かれる。
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