羅愛は息切れを起こした。

 一呼吸置いて、次すべき事を考える。

 羅愛は、廊下の窓の外を身を乗り出して見る。

窓外の風景は、近くに塔がギチギチの位置で立っているために良くはない。

目線を下に下ろすと、塔に設置されている窓が見えた。  

「ユタカ発見」

 その窓から中の人の様子が見えている。

 塔の現代の主は、シャーハットだ。

こちらが形成逆転をすれば、シャーハットとユタカはこの塔に篭り作戦を練り直すだろうと睨んだ。

結果は、睨んだ通りに動いてくれたわけだ。

 羅愛がこうして中の様子を探っているにも関わらず、中の二人はこちらに気付く気配もない。

 というのも、ユタカとシャーハットは何やら言い争いをしている。何故わかるか?

 というと、ユタカがシャーハットに剣を向けているからだ。

  「約束が違う、契約違反でお前は死ね。なんて、言っているわけじゃないわよね? 

アタシに続いてシャーハットまで裏切るつもりか?」

 もし、ユタカが本気でシャーハットを殺そうとするならば、この勝負はユタカの勝利になるだろう。

 シャーハットが武術に優れているという噂も聞かない。

それに、シャーハットはかなりの高齢であるため、ユタカよりも力があるとは思えない。

 近くに部下もいなさそうだし、二人だけならば決着は直につくであろう。

「シャーハットも傘下にする人間の見極めが甘かったわねぇ」

 ケリがつくまで、中の様子を伺っていよう。

 今ここで出てきて2人を相手するよりも、生き残りの1人を相手する方が楽だ。

 まぁ、その生き残りはユタカに決定なんだけど、勝手に勝者を決め込んだ瞬間だった――

「はぁ〜? 何、あれ? あれ、ありですか? ちょっとちょっと、蜘蛛人間じゃないんだからぁ〜。気持悪い」

 シャーハットが、いよいよ殺されようとした時だった。

 シャーハットの背中から、腕が生えるように2本出てきてユタカの剣を弾き飛ばしたのは。

 羅愛も驚いたが、一番驚いたのはその場で相手をしているユタカ本人だろう。

「あれですか? 人造人間っていう人造機能の部分をつけた人種。あれは、困ったことに違法使用者よねぇ」

 深い溜息をついた。

 世の中どうしうもない輩は大勢いるが、シャーハットはどうしようもないを越している。

 本来の目的は、事故による身体部位の切断や不機能になった人に、代用のモノを付け加えるためのものだ。

しかし、シャーハットの目的は戦闘。

「嫌になっちゃうな。素晴らしい尊い旧時代の技術を、戦闘目的という野蛮な事に利用している輩ってね」

 ユタカが悪戦苦闘している。

 自分の身体をいじった化け物相手では、悪戦苦闘も無理はない。  

「まぁ――」

 羅愛は顎に手をやり考えた。

「化け物相手するのも楽しいかな?」

 考えた結果、緊張感の欠片もない遊びにいくような考えが出てくる。

「ユタカばっかり、化け物を相手するチャンスがあるなんてずるーい。というわけで、突入――!」

 愛車の二輪車に跨ると、エンジンを最大限にして窓の外へと迷わず突っ込む。

 ここは6階だ。6階の窓の外へ突っ込むには、自然の原理として重力に沿って物体は落下するのが道理だ。

しかし、羅愛の場合は道理が通用しなかった。

 なんと、窓の外へと突っ込んだ瞬間、二輪車から翼のような部分が出てきたのだ。

 羅愛は、空を二輪車で走らせる。

 そして、二輪車の前輪で突き破るように塔の窓硝子を割る。景気のいい音が鳴った。

そのまま窓から滑り込むように部屋へ侵入した後、部屋の地面へとバイクごと華麗なる着地をしてみる。

 案外上手く着地でき、気分がいい。

 気分がいいついでに、部屋中を見渡して決め台詞を言ってみる事にした。

「やっほ〜、元気? 羅愛・イシュターナ参上っ!」

 

NEXT→