羅愛は、城の隠し通路を通り、誰にも見つからないように城中を走った。 普段は宝の持ち腐れとしか思えない隠し通路も、このような緊急事態ならば役に立つ代物だ。 ふいに、細くて真っ暗な通路の先に光が見えた。暗い場所に数分しかいないにも関わらず、明るい光が目に沁みる。 「まっぶしぃ〜」 目を細めて当たりを見渡し、敵がいないかどうか確認する。 正門で偽者の自分が暴れているためか、予想通り誰もいなかった。 しかし、腑に落ちない。 簡単に事が進みすぎだ。敵側は、ユーロ国一番の知恵を持ち賢者と噂されている、ユタカがいるのだ。 軍事と剣技においては、羅愛が優れていると評価されているが、何時でもユタカに勝っているとは思ってはいなかった。 ユタカと模擬試合をしても、いつも勝つのは羅愛の方なのにだ。 いつも本気ではないような、力を抑えているような感じがヒシヒシと伝わっていた。 それが、羅愛と対自している時はとくに、手加減というものを密かにしているような気がしてならない。 冷静に思い起こせば、あの夜だって羅愛を殺そうと思えば殺せたのだ。 いや、あの夜に限らず、殺そうと思えばいつでも殺せただろう。 何かユタカに計画があり、ワザワザ遠回り的なことをしているような気がしてならない。 いつでも殺せる人間を生かし、泳がしているような気がする。 「どっちにしろ、アタシとユタカは敵なのは変わらないけどね」 城の武器庫に足を運び、音を立てないように神経を使いながら重い扉を開ける。 羅愛は薄暗い倉庫に足を踏み込んだ。 様々な武器が並んでいる中に、探している物が簡単に目に入る。 それは、よく乗り回している2輪車。 2輪車はエネルギー補給のため、様々なキューブに繋がれて止められている。 一本一本キューブを外し、不備や意図的な改造がなかったか確認していく。 「荒らされた形跡なし、いじられた形跡もなし」 羅愛を殺す方法は何通りもある。 その一つとして、この愛車を不備にすることだ。そうすると、事故に見せかけて殺すことができよう。 「アタシも馬鹿じゃないから、そんな方法は見え透いている」 だから、こうして丹念に愛車を調べているのだ。 「無駄な事はしない主義らしいね。アイツらしいけど、たまには無駄に賭けてみようとは思わなかったのかしら?」 二輪車に跨ると、エンジンを鳴り響かせる。もちろん、エンジン音も正常である。 「さて、解決に向かって発進進行〜。なんてね?」 誰もいないが、わざと明るく独り言を言い放ち愛車を走らせる。 武器庫を出て、近くの城の窓硝子を割って城の中に進入する。 廊下をそのまま走らせれば、何事か兵士や城使えが野次馬根性で出てくる。 「引っ込んでなさい! 万が一アタシの行き先を邪魔するならば、撥ね飛ばすからね!」 これは、脅しなのではない。 羅愛は、やると言ったらやるタイプだ。それが、出てきたのが味方軍だとしてもだ。 「ほらほらほら、羅愛・イシュターナがお通りだよぉぉぉぉぉぉぉぉ。 数メートル先の自給女、そこどかないと撥ね飛ばすよぉぉぉぉぉぉぉ」 「うわわわ、羅愛お姉様! ワタクシですってワタクシ! 城の中で暴走に走らないでくださいましな」 よく見ると、数メートル先にいた自給女はティンクルだ。 急ブレーキをかけると、けたたましい音が鳴り響く。 物理の法則で羅愛の身体は前へとつんのめり、もう少しで愛車から先方へ放り投げられそうになった。 「ゲストは無事に解放したのか?」 「えぇ、無事に解放しましたわ。そもそも、おじー様が傍についていた時点で手が出せなかったでしょうけどね」 「あの人は本当にお年寄りなのかなぁ……」 セバンは、バリツという体術の達人だ。 「ワタクシ達も敵を殲滅させる方に回りますので、羅愛お姉様は早く茶番劇を終わらせてくださいましな」 「お願いね。よし、敵の頭を叩きに行くかぁ」 羅愛は、合を入れる代わりに愛車のエンジン音を派手に鳴らす。 「ちょ、羅愛お姉様! 城の中で乗り回していたら、空気が汚れますわ」 そんな文句は無視し、愛車を暴走的に再び走らす。 「ほらほらほら、そこ野次馬! ぼさっとしていると撥ね飛ばすわよ?」 羅愛を倒そうと思ってなのか、興味本位なのか、それとも馬鹿なのか? 羅愛の進行通路に出てくる輩は多かった。 それを、また人格が変わったように怒鳴りつけ忠告する。 城を二輪車で走っていると、その繰り返しだった。目的地につく頃には、少々疲れが出てきた。 「ぜーはーぜーはー、同じことを何回も叫ばせるなよぉ〜」
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