シャーハットは悔しそうに、爆弾を爆発させないため恐る恐るスイッチを渡してくる。  

「この、裏切り者めがっ」

 負け犬の遠吠え、という言葉が東の島国であった。

 今のシャーハットにぴったりだ、とユタカは内心ほくそ笑んだ。

シャーハットは悔しそうに、爆弾を爆発させないため恐る恐るスイッチを渡してくる。  

「この、裏切り者めがっ」

 負け犬の遠吠え、という言葉が東の島国であった。

 今のシャーハットにぴったりだ、とユタカは内心ほくそ笑んだ。

「お言葉ですが、裏切り者という意味をご存知ないようなので訂正いたします。

裏切り者というのは、敵に内通して、主人または味方にそむく行為をした者のことであります。

この意味から自分の事を考えると、残念ながら裏切り者とは言えません」

 渡されたスイッチを手で弄び、爆弾を床に放り投げる。  

「おい! 万が一爆発したら、どうするのだ!」

 意図的に相手を誘う笑みを浮かべて、シャーハットを見る。

「万が一爆発したならば、一緒に死ぬしかないですね」

「うっ」

 シャーハットが先程とは違う意味で、顔を赤く染めて言葉を詰まらせている。  

「なんて、冗談ですよ。冗談」

 遊ばれていると感づいて、シャーハットはますます顔を赤く染めて睨む。

「年寄りをコケにしよって! お前は、結局は小娘のスパイか?」

 そのような解釈に持ってきたか。

 ユタカは笑った。手で弄んでいたスイッチをミシッと握りつぶし、床に落ちていた爆弾を踏み潰しながら。

「あー、おかしい。結局のところ、閣下は第三の敵の存在を考えなかったという事か。

他人の策略に難癖つけるけど、閣下も十分策略が甘いと思いますが」

 何回も何回も、爆弾を踏み潰していたので足の裏が痛くなってきた。

爆弾はすっかり粉砕し、プラスチック粉末へと様代わりしている。  

「お、おい、それは処理済みか?」

 シャーハットの額にびっしょりと汗が浮かんでいる。

 爆発しないか、気が気ではなかったのだろう。  

「もちろん、処理済ですから行っている行動でありますけど? 

今更ですね。自分が、貴方と一緒に心中するとでもお思いですか?」

「人を小馬鹿にしやがって」

 シャーハットは、それはそれは悔しそうな顔でユタカを睨む。

 あんなに偉そうにしていた人物が、今ではオドオドしたり悔しそうな表情を浮び上がらせてみたり、

かと思うと顔を赤くしたりと、百面相の如く表情がコロコロ変わる。それが、ユタカにはおかしくておかしくて堪らなかった。

今まで受けたストレス要因の一人であるならば、なお更だ。

「貴方に加担して王政をひっくり返す事に成功した後、貴方を殺害して取って変わろうとしてました」

 ユタカは、目の前の人物が想像できなかっただろう真実を告白する。  

「ですが、それもこれまでです。思っていた程、たいしたことなかったですね」

 剣を再びシャーハットへと向けると、サービスで微笑んで言ってやる。  

「後で殺害しようが今殺害しようが、どーせ同じなのですよね。

役立たずのご老体は幕引きの時間が迫ってきましたよ。さぁさぁ、俺の剣で死にやがれ」

 シャーハットは腰に下げている自分の獲物に手をやっているが、剣とシャーハットの首はわずかな距離しかない。

よって、シャーハットには勝ち目がなかった。

 ユタカは勝利を確信したが――



 カキィィィィ――ン



    剣から予定外の感触が伝わってきた。

 剣が硬い物に接触した音が響き渡り、ユタカの腕が痺れがやってきたて思わず剣を落としてしまった。

「なっ、人造人間だと?」

 今度はユタカが驚く番だった。

 シャーハットの背中から突き出た2本の長い腕、まるで羽のように生えている。

 腕と言ったが、その腕の性質は硬化物質出来ている。その事は、剣と交わったときの感触で瞬時にわかったことだ。

 リアルな腕に見えても、本当の腕ではない。

 人造人間――またの名を機械化人間。

 人工の身体部位をつけた人間のことだ。

本来の目的は、事故による身体部位の切断や不機能になった人に、代用のモノを付け加えるためのもの。

しかし、本来の目的とはだいぶ離れた利用する輩がいると聞いている。

 今、目の前にいる人物は後半の人間だ。

 腕が沢山増やせば仕事がはかどるだろうと、思って腕を付け加えた例を知っている。

 しかし、シャーハットの場合はそんな平和的な理由ではなさそうだ。  

「非常に物騒な身体の構造をしている。まるで、化け物だ」

「こういう事態に置かれた時、大変助けられるのでな」

 ユタカはシャーハットの様子を伺う。

 長い人工の腕により、シャーハットとの間合いは遠くなる。なおかつ、2本腕が生えたことにより隙が少ない。  

「まだまだ、あるぞ」

 嫌な気配がした。

ベキパキッと、硬い殻を突き破るような音を鳴り響かせ、背中から腕がもう2本生えてきたのだ。

 そして、勢いよくユタカに腕が伸びてくる。

 その腕を逃れるために後ろへ跳び下るが、腕はどこまでも伸びてユタカを追う。まるで、猛スピードで成長する植物のようだ。

  「しまった……」

 ユタカの片足が掴まれた。

 迫り来る2本の対応に精一杯だったため、もう2本の人工物の腕がユタカの死角から迫り来ることに気付かなかったのだ。

 そのまま片足を掴まれ、床に叩きつけられた。そして、人工の両手がユタカの首を締め上げる。  

「くっ……」

 思っていた以上の握力で締め上げられる。  

「どうだ? 勝利が目の前に来た時に叩きつけられた敗北の味は」

 酸欠が先か? それとも喉を握り潰されて死ぬ方が先か? 

酸素が足りないのに、何故かユタカは冷静にそんなことを考えられた。

  「歯向かってきた輩を蚊のように潰す感覚は毎度堪らない」

 シャーハットが何かしゃべり出しているが、今更持ってシャーハットに注目する気にもなれない。

 ふっと、窓を見た。

 窓は相変わらずの憎憎しい程の青空だった。

あぁ、最後くらい自分にあった心境の天気であればいいのに――と思っていた時だった。

 窓に暗い影がかかってきて、何かが降って来る気配がする。

「切り札であるこの身体を披露した時の驚く表情。その後の勝てないと思った時の絶望感、そして――」



 ガシャ――ン



 シャーハットの台詞と重なるように、窓硝子が割れる。

 窓硝子の割れた原因を知っているユタカの驚きと唖然とした表情とは裏腹に

、シャーハットは怪訝そうな表情で振り向き窓を見やる。

 そこには――

「やっほ〜、元気? 羅愛・イシュターナ参上っ!」

 羅愛がバイクに乗って、高さがかなりある建物の最上階窓を突き破り現れ、きめ台詞を言い放ちポーズを決めていたのだ。  





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