城中が今や戦地になり、戦っている兵士の怒声が響き渡っている最中。

この状況を表すに相応しい言葉と言ったら、"大混乱"が相応しいだろう。

 しかし、大混乱な状況の中でも、この空間だけは静かだった。

 ユタカは円形の部屋に足を踏み入れる。部屋に設置してある唯一の窓辺に佇み、

下界を観察する神のように外の騒々しい現状を眺めているシャーハットの方へ歩み寄る。  

「閣下。城を脱出する準備を」

「形成逆転だな。

ユーロ国一の知識を持ち"賢者"とも評されるソナタの知恵は、ズル賢さにおいてはずば抜けるアヤツには劣るのかね?」

 その場にひざまつき、シャーハットの水面のような怒りを受け止める。  

「軍師における才能は、私を超える場面があります。

本来ならば王は、国よりも"賢者の石"を優先的に考えて行動をするもの。

自分もまさか、"賢者の石"を守ることを重点的に考え行動するよりも、

国を守ることを重点に置いて行動したことに驚いてます」

「"賢者の石"それは、国よりも大切な世界よりも重い貴重な代物だからな。

小娘は、それをわかっていないのか? それとも――」

「いいえ、十分わかっているでしょう。勝つ勝算があるからこそ、城の奪還を目指したのでしょう」

 シャーハットに顔色を伺われないように、意図的に目線を下に下ろす。

 羅愛が城の奪還に走る確率は、高いであろうと予測もしていた。羅愛の性格上血が頭に上り易いとよく知っている、

惚れた相手に裏切られ血が上り間違った行動に出るという分析からだ。

 もし、羅愛が冷静ならば、城の奪還という行動には走らない。

自分の立場を考えれば、"賢者の石"を守ることに全力を注いでいただろう。

 ユタカは後悔していた。

 爪が甘かったのだ。

 城の奪還を選択したならば、復讐心から出た行動だろうと思って甘く見ていたのだ。

 復讐心から出た行動ならば、感情だけで突き進む行動に出ると思ったのだ。

だが、ヤケや復讐心から間違った選択として城奪還に出たわけでもなく、冷静になり考えた上での城奪還なのだ。

 まぁ、ユタカにとっては、どちらでもよかった。  

「城を手放しますか? それとも、降参いたしましょうか?」

 感情の灯ってない声で、次の指示を伺う。  

「奴らに降参されれば、お前も困るだろう。城を手放すという選択は、ある意味現実的であり効率的だ。

そう、最初からすればよかったのだ。最初から」

 後半の台詞は独り言のように呟く。

 シャーハットの手には、スイッチが握られていた。

「閣下? それは――」

 この状況でのスイッチというと、火器の類だ。  

「本当の策士は、最悪な状況も予測しとくものなのだ。

お前の失敗は、自分の頭の出来の良さを過剰に自身を持ち、最悪な出来事に備えてこなかったということだ。

お前達が頼りないから、ワシが自ら城を倒壊する量の爆弾を設置したのだよ」

「それで、自爆でもするおつもりでしょうか?」

 城が倒壊するならば、ここも危ないのではないか?

 ユタカは、怪訝に思い問う。

「あぁ、まだ教えてなかったな。この塔は、内密に建物の強度を上げたのだ。

城は爆発により倒壊するが、この塔にいる限り我々は安全だ」

 ユタカは肩をすくめた。

 反王政派の傘下に入った時からシャーハットには尽くしてきたつもりだったが、

シャーハットには完全に信頼されてなかったらしい。

 無理もない。

 だって、自分は――  

「その爆弾ですが、かなりの個数を設置なさってますね」

 ユタカは立ち上がると、自分のポケットから黒い小さな長方形のプラスチックの塊を取り出す。

 数は10個。

 他にも沢山あったのだが、ユタカが一度に持てる数を超えていたために勝手に処理をした。

「な、なに!?」

 シャーハットは唖然とし、スイッチを手から取り落としそうになった。

 ユタカは、シャーハットが取り落としそうになったスイッチを自然に受け止め、シャーハットに握らせる。

 妖艶な笑みを浮かべて、シャーハットを見つめる。 

「さて、閣下に問題です。この塔は強度が上がったと言いますが、内側から爆発させるとどうなるのでしょうか?

 1、中側だけ惨劇状態になり外側は無傷。2、塔全体が崩壊。3、塔も城も崩壊。

4、爆発させようと思ったが、思いとどまった。

さて、どれでしょうね? 自分としましては、4をオススメ致します。

どちらにしろ、内側から爆発させたのならば自分達は文字通り自爆になりますからね」

「ユタカ、貴様っ!」

 顔を真っ赤にさせて、シャーハットはユタカを酷い形相で睨んでいる。

 だが、ユタカはその表情に屈しない。

「スイッチ、押せなくなりましたか? 押せないようでしたら、こちらに渡していただきましょう」

 腰に下げてある剣を抜きシャーハットの喉元に当てながら、要求をする。





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