「自ら死にたい悪い子はどこですか? 人間みじん切りにして差し上げますよ。ふふふふふっ」

 戦闘狂になったマリアを見て、本当に信心深い人なのかどうか首を捻る。

 マリアが信仰している宗教では、右の頬を打たれたら左の頬も差し出しなさい、という教義があったのだが……。

マリアの聖書には、その一文が抜けているらしい。  



 ドォォォォォォ――ン



 空気が大きく震える音がした。

 耳の鼓膜が破けそうなほどの低い大きな炸裂音だ。

 この音に驚いた敵側の兵士達の行動といったら、

腰を抜かす者、わめき散らし一目散に逃げる者、怯え縮こまっている者など等、闘争心がなくなっている者ばかりだった。  

「こ、今度は、な、何!?」

 ラルトは耳を押さえながら、音の正体を探す。

 目が行ったのは、数メートル先の地面に穴が開いている。その中に、鉄の球体が埋め込まれていた風景だった。

『こちら、カイ応答願いまーす』

 ラルトの無線機からカイの声が聞こえる。

 ポケットから無線機を取り出したとたん、無線機はマリアに奪われる。

「貴方ですね。私の楽しみを奪ったのは!」

『楽しみ? 敵に囲まれていたのにか? それより、面白いおもちゃを発見したのだから、この機会に試さないっとな』

「このお馬鹿さん、そんなの砂漠のど真ん中で試しなさい。私達まで巻き添えにするおつもりですか!」

『ラルトを巻き添えにしようとしていた奴が何を言う』

 なんだか不穏な空気になってきたので、ラルトはマリアから無線機を奪い返す。  

「そちらはどうですか?」

『ラルトか? こっちは、待機していた兵士もそっちに行ったみたいだったから、苦労することもなく簡単に突破できたぞ』

 カイと解は、敵側によって城中に隠し置かれた違法の武器を発見し始末する担当だ。  

「今のは大砲ですよね? そんな大きな武器をどうやって運び入れて隠していたんだが……」

『お前も知っただろ? 地下から運び入れたんだよ。城には、色々と仕掛けがあるから隠しやすいしな』

 ラルトは恐怖を覚えた。

 そんな隙だらけの城に、今日まで反乱が起きなかったものだ。

だから、城の詳しい構造については、少人数しか知らない極秘の秘密だったのか?

『戦いは迅速に行うのが賢いやり方なんだよ。ちまちま戦ってないで、さっさと終わらせるぞ』

「それをマリアさんに言ってください。もう、付き合いきれません」

『そう言うなって、頑張ってくれよ』

 羅愛も一癖も二癖もあったが、戦闘になると羅愛の上をいくマリア。

そんなマリアのせいで、今とてつもなく苦労しているような気がする。  

「死にそうです」

『ファイトいっぱつ。おっと、こっちに向かって新たに敵陣が来ているぞ』

「まだまだ、なんですかぁ〜」

『囮組だろ? 羅愛がケリをつけるまで頑張れ。オレも遠くから、こうやって援助するからさ』

 また、低く空気が震える派手な音が響き渡った。

 よっぽど武器がおきに召したらしい。

  「マリアさんが怒ってますよ」

『気にするな、頑張れ苦労人よ。じゃーな』

 その言葉を最後に、無線機が途切れた。

 マリアに視線を移動すると、新手と嬉々として戦っている。

 もう、嫌だ! 一般人の自分にはこの状態ついていけない! 

と心の中で叫びながら、ラルトも泣く泣く剣を片手に応戦するのであった。



 じめじめした牢屋。

 その牢屋の中には、羅愛の部下達がぎっしりと詰め込まれている。まるで、家畜みたいな扱いだ。

 見張りの兵士をぶっ飛ばして鍵を奪い取り、部下達を解放してやる。  

「アンタら、売られた喧嘩は買うわよね?」

 解放した部下達に聞くと、部下達は拳を上に振りかざした。

 その答えに、満足に頷いく。

「アタシが許す! ちょーっと軽く暴れてきなさい」

 羅愛の命令に、血気盛んな部下達が雄たけびを上げて牢屋から出て行った。

 それを見送ると、先程ぶっとばした兵士が無線機で誰かと話そうとしている。  

「ユ、ユタカ、宰相、指示を」

 ユタカと繋がっているのか?

 羅愛は、兵士の背中に向かってタックルする。

「うぎゃ」

 いきなりの攻撃に驚いた兵士が、甲高い叫び声を上げる。

 タックルしたと同時に無線機を奪うと、羅愛はいつもの調子で向こう側にいる相手に話しかけた。

「やっほ〜、元気?」

 何でもない一言。

 裏切られて悲しいだの、憎たらしいとかのマイナス要素の気持ちも込もってない。

マイナス要素の気持が込もってなければ、未だに信じているだの、まだ好きだからなんていうプラス要素の気持も込めてない。

 本当に普通と変わらない感情で、その一言が言えた。

 この作戦に出る前には、あれほど底なし沼にはまったように悩んでいたのにだ。

『羅愛っ』

 だが、向こう側の相手は羅愛とは正反対だ。

 忌々しく自分の名前を呼んだかと思うと、空中を切る音が聞こえた瞬間には派手に物が壊れる音がした。

そして、ザーザーと雑音が羅愛の耳に響く。  

「アイツ、無線機壊したな。あんなに短気な野郎だったっけ? 

もしかして、カルシウム足りてない? そ、それとも、更年期障害かっ? もはや……」

「更年期障害は女性だけの問題でアルヨ」

 羅愛のボケのような台詞に、いきなりツッコミがして驚く。

「アタシについてきたの? 祖国に帰れといったのに」

 怪しげな東洋人。その名もリャンという暗殺を羅愛は金で買った。

 買った後の命令は祖国に帰れ! という、ただ単純なものだった。

命令の理由は、敵側にうろちょろされても困るが、こちら側に居ても邪魔なだけだからだ。

 だから、敵側の倍の値段で買い、解放した。

「途中で退場レッドカード出されても、気になるだけでアルヨ。

それより、社っ長さんは敵側のことをもっと知りたくないですカ?」

「もう、大体予測しているし」

「居場所とかも?」

「篭るとしたら、シャーハット右大臣専属の塔でしょう? 

あの塔は頑丈で外側だと攻め難いのよねぇ〜。まぁ、アタシに考えがあるけどね」

 何事にも終わりが来る。

 ゲームにも、そして反王政の企みにも――

 大祭前の大祭りとして、反王政の輩をも利用して大いに騒いでやろうじゃないか。

 羅愛の気分は、数十分前とは違って高揚していた。吹っ切れたのかもしれない。

 ユタカが敵側でも、その時はその時だろう。羅愛お得意の何とかなる! 

精神が深いことは考えないようにと支配してきているのだった。





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