正門を叩く音がして、内側で待機している兵士の一人は眠たい眼を擦り応答した。

 頑丈に閉ざされた門は、内側から開かないと開門しない仕組みになっている。

 いつもは、平和な国であるために開けたままになっている門は、

今は城がユーロ国全てを拒否しているかのように閉ざしている。

「誰だ?」

「羅愛・イシュナータを連れてきた。正門を開けよ!」

「何? こんなに早くに見つかったのか?」

 相手はユーロ国で一番の剣士であり、強いと聞く。こんなに早くに捕まるのか? と首を捻りながらも、正門を開ける。

 古びた鉄の門は錆びているのか開け難い。

 やっと開けた時、兵士の首に何が長いものが巻きつく。

「ぐえっ」

「お馬鹿さん、少々寝ていてくださいな」

 フードを深く被った桜色の髪をした女が、口元を三日月型に歪めて兵士に囁く。

 それが最後で、目の前が真っ暗になり記憶が途切れた。



 ラルトは嫌な予感がした。

 ひっそりと正門に入って、ひっそり正門に待機している敵をおびき寄せ、

ひっそりと敵を始末する計画だった。だが、計画はマリアによって壊される。

 羅愛に扮したマリアを使い、正門を開けさせて油断させようという計画だった。

だが、この人は正門を開けた兵士を瞬時に倒し、そして他の兵士を倒しにかかっている。  

「あ"――! だから、嫌なんです。他称"血のマリア"戦闘狂にて羅愛軍師長の犬猿の仲! 

この人と一緒に戦地に出向くということが、命がいくつあっても足りないぃ」  

 ラルトは頭を抱えて、悲鳴に似た声の文句を口から出す。  

「何、ボサッとしているのですか? 死にたいのですか?」

「ひっ、死にたくありませーん」

 ラルトは泣く泣く武器を手に取り瞬時に後ろを向く。

そうすると、丁度背後に忍び寄っていた兵士と向き合う形になる。

 兵士はラルトに気付かれて、一瞬気まずそうな表情を浮かべる。

ラルトも困った表情を浮かべる。少しの間が開き、その間を利用しラルトはブーツの踵を3回軽く蹴る。

蹴ると、ブーツの先から刃物が出る仕組みとなっている。刃物が出た同時に、鋭い回し蹴りを食らわす。

相手の喉を切り裂き、相手を絶命させた。  

「さすが、羅愛の部下ですわね。容赦ないところが、羅愛そっくり」

「違います。弱いから、手加減が出来ないんです。殺すか殺されるかどっちかなんです。

特に、兵士同士の闘いはそういうモノなんです」

 相手の血がラルトの頬につき、鉄臭さに胃の内容物がこみ上げる。

 いまいち鉄臭さに馴れない。

 だが、この臭いにいちいち構ってもられない。次から次へと敵の兵士が蟻のように群がってくる。  

「あーもう、このカツラ邪魔ですね。取っていいでしょうか?」

「どうせ計画も失敗ですし、取っていいんじゃないですか?」

 マリアはフードを脱ぎ、桜色の髪のカツラを外す。

「頭が蒸れました。運動中には不向きな被り物です」

「さいですか」

 この状況を運動中と言ってしまうマリアにうんざりしながら、ラルトは武器の剣を振り回す。

 ラルトにとっては、この状況は本当の戦場だ。  

「もう、死にそう」

 剣を交えながら、独り言を呟いた。

 独り言のように呟いたのだが、マリアの耳は地獄耳だ。

「お葬式は厳かにカトリックでして差し上げます」

 鞭で対戦しながら、楽しそうラルトへ答える。

「いや、その前に助けてください」

 剣にめいいっぱい力を入れて、相手を押し返す。

「数が多すぎます。手が何本あっても足りません」

 マリアの背中がラルトの背中に合わさる。

 ラルトとマリアの周囲は敵で包囲されていた。

「数に勝るものはなし! と昔の人はよく言ったものです」

 マリアは、静かに吐き捨てる。  

「何諦めているんですか!」

「諦める? それは、誰に言っている言葉ですか? 

周囲のむさ苦しい男共に言っているならわかりますが、私に言っていたら一緒にみじん切りにしちゃいますよ」

 マリアは、鞭を地面に一度音を鳴らすように叩く。次に、空中に旋回するように振り回す。

丁度、カーボーイがロープを空中で振り回すような形になる。

 最初はゆっくりと空気の質を調べるように、そして次第に素早く鞭を旋回する。

「空気が……いや、風が鋭くなっている?」

「ふふふふっ、お食らいなさい! 必殺聖なるカマイタチ」

 マリアが鞭を敵になぎ払うように振り回すと、鞭が当たってないにも関わらず敵が刃物に切り刻まれた傷を負っていく。

 まるで、カマイタチを受けたかのようだ。

 素早く、しなやかに、そして風を鋭い刃にさせるように、マリアは鞭を操る。





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