そもそも小さい部屋だったため、この人数で話し合いとなると窮屈すぎた。

 それに追い討ちをかけて、様々なことが羅愛の頭の中で廻りに廻り、息ぐるしく感じる。

「さて、皆そろったな。この際だから、お互いに隠し事止めないか?」

 羅愛は、テーブルを取り囲んだ全員を見渡す。

元々広くはない部屋に、全ての関係者がそろっているために余計に狭い。

 酸欠のような息苦しさを感じながら、羅愛はラルトを見た。  

「今回の件で一番疑問に思ったのは、何でラルトが地下でコイツと遭遇しているのか? 

ということ。この国に地下通路があるのは、アタシ達7人しかいないのにだ」

 ラルトは、紙切れをテーブルの上に広げた。

「これは?」

「正直に話します。僕はカイにこの紙切れをもらいまして、事実を確かめに地下に行ったまでです」

 ラルトがテーブルの上に置いた紙を手に取り広げて見ると、そこにはユーロ国地下の地図が書かれている。  

「カイ、アンタ器用ね。原本の地図とそっくりだわさ」

「器用が取り得なんでね」

「でも、これは没収。なんで、秘密情報を漏らすかな〜」

 羅愛は、地図を小さく折りたたみポケットに入れる。  

「秘密情報を漏らしたのは、オレだけじゃなくユタカだって同じジャン?」

 カイが頬を膨らませて、自分だけではないと自己主張する。  

「そうだよね。ユタカにーがあっち側についているから、地下に危険物が設置できたんだろうし」

 ここにいる全員に紅茶を配りながら、ジャスが考えを述べた。

「だろ? 情報漏洩によって、犯罪に加担しているユタカの方が罪重いよ」

「だからと言って、アンタの罪は無しにならないって」

 パタンっ、分厚い本が乱暴に閉じられる音がした。

 そして、一呼吸置いて――



   バン――ッ



 テーブルの真ん中に、分厚い聖書の本が乱暴に投げ置かれた。  

「ビックリしたじゃないか! アンタこんなの投げでいいの? アンタの信仰で言うと、罰当たりになるんじゃなかったけ?」

「今はどうでもいいことです」

 信者の心の支えである聖書を投げることが、どうでもいいことなのか? というツッコミはマリアの鬼気迫る表情で止める。

 それくらい、今のマリアは怖かった。

「黙って聞いていれば、どうでもよいことばっか話し合ってますね。

今話し合わないといけないのは、城をどう奪還するかの話し合いではなくて?」

 羅愛は落胆した。

 鬼気迫る表情のため、何か重要な意見を言うかと思った。

 いや、城をどう奪い返すかの話し合いも重要だが、マリアの本心は城のことよりも……。

「ようは、アンタは早く戦いたいだけだね」

 それに、尽きるだろう。  

「ち、違います! ただ、貴方達がウダウダ論点がズレた話し合いをしているため、少し腹立たしく思っただけです」

「はいはい。ここに、短気がいるからこれからのこと早急に決めるか」

 適当にマリアをあしらって、羅愛はジャスが淹れた紅茶を一口飲む。

 城を奪い返すのは、羅愛が王である限り当たり前のことだ。

だが、それにはユタカとまた対峙しなければならない。その時は敵としてだ。

 改めて自覚すると、自嘲の笑いがこみ上げる。

 心の中は曇り空のようにどんよりとした灰色で覆われており、霧がかかったように釈然としていない。

 不安なのか?

 ユタカが敵に回ることか。

 あの男は、頭脳が明晰の上、爪を隠す鷹のように様々な能力を隠し持っている。敵に回すと厄介な人物である。

 それが不安の塊となって、心がどんよりとして釈然としてないのか?

「単細胞人の癖に複雑な顔しないでくださいません?」

 それと同時に、頭に熱い液体がかかった。

「あっち――! な、何するんだ、マリア」

 マリアに、熱いお茶を頭からかけられた。

 羅愛は飛び上がり、火傷しそうになった頭を激しく振る。

 この行為により、熱さが一気に回避できるとは思っていない。だが、あまりの熱さでいてもたってもられない。

「羅愛ねーちゃん」

 ジャスが水を羅愛の頭にぶっかける。

 火傷は回避できたが、このことで頭がずぶ濡れだ。  

「アッツかったぁ――! 何するんだよ。マリア」

「魂が半分抜けているようでしたので、強制的に戻ってきてもらうために行いましたの。そうでもしないと」

 マリアに顔を穴が開くほど見つめられ、羅愛は居心地の悪さを感じた。

「あの世に旅立ちそうですよ」

「顔相占いでも始めたのかね? 生憎だが、魂が飛び出てあの世に行く特技は持ち合わせてないぞ」

「でも、羅愛お姉様は、思いつめた表情はしてましたわ」

 ティンクルがタオルをよこしてくれた。

 羅愛は髪の三つ編みをほどいた後、濡れた頭を乱暴にタオルで拭く。





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