否定した後に、何故そんなに力を入れて全力で否定しているのかがわからず、首を横に傾けた。

 信頼以上の思いを抱いていて、ユタカに告白した。

 告白した相手の彼女と間違えられれば、世間一般の感情論では嬉しいと女は喜ぶらしい。だが、羅愛はフラれたに等しい。

 そうか、フラれたに等しいのか……。

――この世から退場願おうか?

 再び、頭の中がユタカの台詞で廻っている。

 あの時は、賢者の石を守ることで必死だったが、今こうして冷静に考えれば羅愛はフラれた。

 頭から血が下った感覚がして、数歩よろめく。

「おーい、大丈夫であるカ?」

「羅愛軍師長?」

「あぁ、アタシは大丈夫だ」

 と口に出しても、頭を金鎚で横殴りされたような衝撃だ。  

「羅愛お姉様いる〜? 着替え持って着ましたの」

 扉の向こう側からティンクルの声が聞こえた。  

「ラルト、後でお前のことも少々質問があるからな。覚悟しとけよ」

「ですよねぇ〜」

 ラルトの溜息を聞きながら、羅愛はこの部屋を出て行く。

 部屋を出ると、ティンクルが着替えを持っていた。

「男物の旅衣装しかなかったから、少しサイズが合わないかもしれませんわ」

「大丈夫だ」

ティンクルから着替えを受け取り、着替えるために2階の空き部屋を借りた。

 男物と言っている割には、少し裾が長いだけだった。長い裾を適当に破いて、動きやすい長さに調節してやる。

 ふっと、耳を澄ました。

 外が騒がしい気配がした。

 窓の外を見ると、軍の兵隊が外を闊歩している。案の定、何かを探している仕草で当たりを見渡し、

あちらこちらの壁に張り紙を貼っていたのだ。

「あいつら、何をやっているのだ?」

 羅愛はマントを羽織り、フードを深く被る。

 部屋は2階にも関わらず飛び降り、猫のように音もなく着地をする。

兵達に気づかれないように、張り紙を張ってある壁に近づく。

 そっと剥がした張り紙の内容を見て――羅愛は驚愕することになる。

「なっ」

 声を殺しながらも、張り紙を剥がした手は震えていた。

 羅愛が賞金首になったことを、その張り紙は知らしめている。  

「これも、ユタカの入れ知恵か……」

 羅愛が王であることを一部でしか公表していない今だからこそ、この手で羅愛を捕まえようとしたのであろう。

 これで、逃げることも難しくなった。  

「逃げるか。そもそも、アタシは逃げようと思っているのか?」

 自分に疑問を投げかける。

 わからない。賢者の石を悪用する者たちの手から守るため、逃げるのか?

 羅愛は重たくなった頭を振り、宿へと戻る。

 軋む宿の扉を開くと、そこに数人の兵士がいる。

 兵士達は一斉に宿に入ってきた者を見ると、それが羅愛であると認識し驚いた表情を浮かべてた。

「やべっ――」

 今の状況では、兵士に出くわすのは不味い。

 羅愛は腰に下げている刀に自然と手が行き、腰を少し落とす。  

「羅愛軍師長! やっとお会いできて良かったです」

「へっ?」

 状況は羅愛の想像とは反した。

 一人の兵が安堵の表情を浮かべ、羅愛に向けて敬礼をした。

「すでにご存知かと思いますが、城は最悪な状況です。

城は反王政府に占拠され、我々もようやっとのことで城を脱出いたしました。

ですが、反発する中央軍の殆どは捕らえられ、今頃は地下牢にぶち込まれているでしょう」

 聞いてもないのに、ズラズラと現在の状況を報告される。

「アタシを躍起になって探しているのは、地方軍ってこと?」

「そうです。特に東地域出身の兵が積極的に加担している様子です」

「黒幕はシャーハット右大臣らしいから、治めている東地域の軍を操作できてもおかしくないわけだな。

しかし、よく無事に城から脱出したな」

 羅愛は自慢の部下の一人の背を叩く。  

「ところで、ユタカはどうしているか知らないか?」

 羅愛は聞いた。

 部下達の表情は、物事を言いにくそうな浮かない表情に怒りの表情が交じり合ったものが浮かぶ。  

「ユタカ宰相は――」

 一人が言葉を詰まらせる。

「大丈夫、ユタカが国を裏切ったのは知っているから。

アタシが聞いているのは、ユタカは元気なの? っていう世間話程度のことよ」

「っは、はい、ユタカ宰相は相変わらずです。今はシャーハット右大臣の下で動いていると思われます」

「相変わらずの無表情で冷血漢、そして眉間に皺を寄せてか? アタシというストレスの要因に解放されたんだから、

少しは晴れ晴れとした顔ができないものかねぇ〜」

 羅愛は先程の紙を開いて、また紙に書かれてある内容を見た。

 自分が高額な価額で賞金首になっているのは、異様な出来事に遭遇した時みたいだ。まだ、現実が受け入れずにいる。 

 現実を受け入れないままに、自分が何をするべきかを悶々を考えている。そうすると、ユタカの言葉がリピートしてくる。

 人に左右されるのは自分らしくなく、そんな自分に自嘲的に笑ってしまう。

「羅愛軍師長?」

「いや、なんでもない。さて、ここに突っ立っているのも疲れるしな。今後のことを話そうじゃないか」

 頭の中で、呪いの言葉の如くユタカの言葉が繰り返されている。

 頭を軽く振って呪いの言葉を振り払い、羅愛は今後のことを考えることにした。





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