「その東洋人、まだ口利ける状態かね?」

「ピンピンしているよ」

「カイが拷問の事を語っていたらさ、アイツ顔色真っ青になって何から何まで話しやがったよ。

まぁ、無理もないけどね。こんな拷問趣味な奴、兄弟じゃなければ付き合いたくもない」

「拷問の何が悪いんだ? 拷問はロマンだ! そして、芸術だ!」

 解の避難の言葉にカイは反抗した。  

「ちょっと、拷問で兄弟喧嘩しないでくれない? どっちもどっちで趣味は最悪だと僕は思うからさ」

「「なんだとー」」

「はいはい落ち着いて、それで今どこにソイツはいるのだ?」

 喧嘩中でも仲良くハモることを忘れない双子に、疲れを感じながらも羅愛は話を元に戻す努力をした。

「今から行こうと提案している所だよ。そもそもレジスタンスの隠れ家でね」

「レジスタンスの隠れ家!?」

 レジスタンスといえば、国の政治が気に食わなければ団結して対抗している団体のアレか?

「やっぱり、マリアはレジスタンスと絡んでいたのだね」

 先日の事件を思い出した。  

「オレも絡んでました〜」

 カイに暢気に発表され、羅愛の裏拳がカイの方へ飛んでいく。

「お前もか!」

「だって、オレは旅して芸をする。しかし、その裏では情報を集めて売る。その名も情報屋だし?」

「まぁまぁ、羅愛ねーちゃん落ち着いて? 色々と文句言いたいのはわかるけど、文句は後にしようよ。

温かい所に行かないと、風邪ひいちゃうよ〜」

 カイに飛び掛りそうになっている羅愛を、ジャスが押さえた。

 先程まで寒さで震えていた身体だったが、色々と考えることが出てきて寒さを忘れていた。  

「くしゅ」

 思い出したかのように、一つくしゃみをする。

 今夜は相当冷え込んできそうだ。

 目の前に立つ建物は、消え入りそうな文字で"コットン食堂"と書かれたボロボロの看板を右よりに斜めって取り付けている。

留め具が壊れかけているのか、ドアはぴたりっと閉まってない。

そして、ドアを開くと耳障りな音がした。何とも不気味で不衛生な食堂だ。

 その不気味で不衛生な食堂"コットン食堂"を羅愛は一度来たことがある。

 来たことがある、と言ったが正確には建物の前までだが……。

 中に入るとフロアがある。

 フロアは食堂と受け付けになっていて、奥にカウンターが設けられている。

 夜になれば食堂は酒場に早変わりするのかもしれない。バーには様々な種類の酒が置いている。

「合言葉」

 カウンターでグラスを拭いている、頬に三本線の傷が目立つ中年の筋肉質の男がギョロリと目を見開くようにこちらを見た。

「マシュマロは焼いたほうがおいしい」

 ジャスが合言葉らしかぬ事をしれっと言う。

 男は無表情顔で頷くと、カウンター奥の扉を開けた。

「入ってよし」

 何故合言葉がそれなのか?

 顔に似合わずマシュマロが好きなのか?

 マシュマロは焼いたほうが旨いのか?

 等など、聞きたいことは山ほどあったが、皆がそそくさと扉へと入っていくので聞けず。

 どーでもいい事なのだが、羅愛は奇妙などーでもいい事が気になるタイプなのだ。

「あの顔でマシュマロ好きなオヤジだから、女一人もいないんだぜ」

 羅愛が気になってしょうがない顔をしていたのだろか、カイが合言葉とカウンターの男との関係性を教えてくれた。

「ここから先は階段になっていて、暗いから足元気をつけてね」

 先頭にいるジャスが羅愛に注意を促す。

 石畳の廊下がいきなり階段になり、ジャスから注意の言葉がなければ足を踏み外していただろう。

 薄暗闇の中、階段を降りていく。

 石で作られた空間特有のひんやりとした気温が、背筋をぞくっとさる。不気味な階段は、奈落の底へと続いているようだ。

 不気味な空間にいると、また気分が沈んできた。

――この世から退場願おうか?

 また、ユタカの声が頭の中で響いた。

 何回も何回も蓄音機を再生しているかのように、鮮明にはっきりと思考を支配する。

  「羅愛ねーちゃん連れてきたよ〜」

 階段を降りきった先にある扉を開け、ジャスが中にいる者へと声をかけた。  

「羅愛お姉さま〜!」

 ティンクルが第一に駆けつけ、タックルをかます要領で羅愛の腰へと抱きつく。

 腰への痛みから、羅愛の思考は現実に戻ってきた。

「腰が痛い……」

「まぁ、お年寄りみたいなことを言うのね。ところで、そんなにずぶ濡れになって寒くありません? 

わたくし、着替えを探しに行ってきますわ」  





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