いつの間にかユタカペースに乗せられて、羅愛は唸った。

 最悪な妄想を首を振って払い、覚悟をした。  

「些細な疑問なんだが、先程の火柱の時なんだけどね。

ユタカはどうやって、いち早く地下から湧き起こる業火を察知して回避できたんだ?」

 ユタカは普段から表情は乏しかったが、羅愛の問いにさらに表情をなくし人形のように無表情な顔を羅愛に向ける。

そして、一歩前に歩み羅愛の距離を縮める。

 羅愛の背は、バルコニーの柵のために下れない。羅愛とユタカの距離は縮まり、間近な距離感に羅愛は顔を染めてそっぽを向いた。

「別にお前を疑ってはないから。

どうやって、地下から湧き起こった業火を察知したのかが、アタシは今後の対策のために知りたいだけなのだからな」

 ユタカの左手が羅愛の左肩に置かれ、右手は羅愛の腰をまさぐる。

「ちょ! ユ、ユタカ!? な、何するんだよ」

 羅愛の鉄拳がユタカの頬に行く。

 突然のユタカの行動に動揺したために、力のコントロールができなかった鉄拳によりユタカは数歩よろめく。  

「まず、何から言えばいいのかな? 告白の返事をする前から手をだすな? いやいや、告白の返事を行動に移すな? 

えーっと、告白しても身体は許さない?」  

 自分でも顔が火照っているのが感じる。

 頬を押さえながら、ぶんぶん顔を横に振る。

「お前はアホか?」

「はい?」

 ユタカの意外な発言に、羅愛は素っ頓狂な声を思わず出してしまった。

 そして、ユタカの右手にある物に注目し、目を丸くしてしまった。

「あー、賢者の石! ユタカふざけているのか?」

 ユタカの右手にあるものは、賢者の石が入った黒別珍の袋だ。

 先程の行動は羅愛の腰ポケットから賢者の石を探していたものだったのだ。

 しかし、何故ユタカが探して盗人みたいに羅愛のポケットから取ったのか?

「ふざけてなんかいない。先程疑問に思ったのではないか? そして、その疑問から俺の疑惑が浮いたはずだよな?」

 今までのユタカの丁寧な言葉から乱暴な口調に一変し、表情は羅愛を嫌悪のあまり見放した表情に変わっていた。

 羅愛は信じられない気持ちでいっぱいで胸が張り裂けそうだったが、

取り乱しては始まらないと自分に言い聞かせて気持ちを押さえ込む。

「地下からの火柱。火柱は化学兵器の物だよね? 

そして、地下に化学兵器を設置できる人間は限られている。“伝説の子ら”であるアタシら7人であるとね。

で、耳がいいアタシより先にタイミングよく火柱を回避したため、ユタカが怪しいと思っちゃったんだよね〜」

「正解。猿のくせに、頭が回るな」

「猿言うな! ってつっこませるな」

 羅愛は咳払いして、話を続けた。

「反逆紛いな事をして、何をしたいのだ?」

 ユタカは腰に下げてある剣を静かに抜き、羅愛へと真っ直ぐ突き刺すように構えた。  

「お前には、この世から退場願おうか?」

 無機質の物質を見るかの如き眼差しを向けられる。

 ユタカ特有の敵に向ける眼差しだ。  

「好きな男に殺される悲劇な女か。それも悪くはないけど、どーもアタシにはむかないわね」

 羅愛は危機が身に迫っているときは、どんなショックが身を襲っても自分の身の安全を回避するように思考が動く性質らしい。

 ユタカが自分を裏切った今でも、本来ならショックで曇る思考がこの状態をどうにかしようと思考がクリアになっている。  

「やけに、落ち着いているな」

 ユタカが、一歩間合いを詰めて来る。

 羅愛は腰を少し落とし、攻撃に備える体制を取りながら様子を伺う。

「今の状態は賭け事だからね。賭け事は、落ち着いて相手の次の手を考えるのが勝ちに繋がるのよ。

ユタカは賭けが嫌いだから、こういう場ではぬけているね」

「何を? ま、まさかー」

「アタシがアンタと会う前、ようは先代の王の養子になる前に何をやっていたでしょう?」

 ユタカが先程羅愛から奪った賢者の石が入っている布袋を見つめた。

「詐欺師めが」

「詐欺師じゃない! まったく、正解は賭け事で生計立てていたでしょう?」

「トリック使って勝っていた人間に言われたくない。本物はどこだ?」

  羅愛は首から下げられていたペンダントを、服の下から取り出してユタカに見せびらかす。

 ユタカは今にも飛びつきそうだった。  

「これが欲しかったら、何故愚かなことまでして反逆紛いをするのか? 

簡潔に述べてくれないか? 理由によっては、お前に王を譲ってもいいけど」

 羅愛は首から賢者の石をはずし、手の中で弄びながらユタカの様子を見た。

 未だ剣を構えることを止めてない。

 羅愛といえば、自分の得物である刀を構えていない。

もし、ユタカが本気で羅愛を殺しにかかるならば、その攻撃をかわすのが難しい間合いである。





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