「ユタカは賢者の石の事知っているよね? 

賢者の石に選ばれなければ、賢者の石は使えない。まさか、アタシを殺して自分が賢者の石にとか思っているわけないよね」

「正直言ってー」

 ユタカが口を開いた。

「疲れた。お前の子守やお前の無茶っぷりに付き合わされるのも、うんざりだ! 

お前が王だと? 笑わせるな。こんなチンチクリンで口より手が出るのが早い奴に王が任せられるか!」

「正直が一番だけど、ちょっとそりゃ堪えるわ。チンチクリンかぁ〜」

 羅愛は軽いショックでよろめいた。

 それが合図だった。

 ユタカが地を蹴り、羅愛へと迷いなく剣を突きにかかる。

羅愛は瞬間にしゃがみ、身体を滑らしユタカの懐に踏み込む。

そして、ユタカの右手にある袋をするりっと取った。その後、前転をしてユタカとの着距離を十分に保つ。

「ふー、どうなるかと思った。だけど、本物の賢者の石無事に奪還成功〜」

「はぁー!? それ、偽物だって」

 ユタカが目を丸くしているのを横目で見つつ、今度は羅愛が優越に浸る番だった。  

「まさか、ユタカ本当に信じていたの? 先程自分でアタシが詐欺師って言ったクセにね。

そう思うならば、油断しちゃ駄目だろうに」

 羅愛は偽物と言った首からぶら提げていた賢者の石を、高らかに放り投げた。

すると、地面に落ちた時に割れる音がして、偽賢者の石は木っ端微塵になり床に散らばる。

「ね? 賢者の石は頑丈に出来ているもの。この程度じゃ壊れない」 

「この詐欺師めが」

「したたか、と言って欲しいな〜」

 口では減らず口を言っているが、空気が緊迫しお互いが次の出方を探り合う。

 その時だった――



   ドダァァァァァ――ンッ



 大きな音と共に、城全体が揺れる。

 まともに立ってもいられない揺れで、羅愛がバランスを崩した拍子にユタカが飛び掛る。

 賢者の石をめぐり、揉み合いになり掴み合いになった。それは激しさを増し、足蹴りも出てくるほどに。

 すると、賢者の石が入った袋は羅愛の手からするりっと抜けた。

弧を描いてバルコニーの柵外へと空中を浮遊し、重力に従って真っ逆さまに落ちて行く。  

「やばいっ!」

 この部屋は高さ50メートルにも及ぶ。

 羅愛は賢者の石を追うことばかりで、高さのことは頭にはなかった。

バルコニーから飛び降りる形で賢者の石の後を追いかける。

 何とか賢者の石をキャッチできた後、我に返った時にはもう遅い。

 羅愛は真っ逆さまに落下することになるのだった。  





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