爆発しそうだった胸を押さえつけながら、ほっと一安心する。

 見知らぬ暗闇は恐怖をラルトに与えるだけで、良いことなど何もない。

出来ることなら、出たい。でも、出入り口が塞がってしまったため出れない。

 ラルトは明かりをつけようと、ポケットからライターを取り出す。

 タバコは吸わないが、仕事の関係上何があるかわかったものではないために、いつも持ち歩いている。それが今、役に立つ。

「はぁ〜、やっと明るくなったぁ」

 明るくなったことで、改めて周辺を確認する。

 ジメジメとした空気、陰湿な雰囲気が漂う空間らしく光が一切届かない場所だ。

 用心深く前へ進むと、前方に日干し煉瓦作りの階段を発見した。

ここから、地下通路へと行けるらしい。

ラルトは、おそるおそる一歩一歩足を踏み出し、階段を踏みしめるかのように下りていく。

 下に降りて行くにつれ、生臭く湿った地下特有の臭いが強くなっていく。どうやら、空気の循環が悪いらしい。  

「何か出てきそうだなぁ」

 ラルトはこの世で嫌いなモノが、いくつかある。ゲイと酔っ払いと、そしてお化けだ。

 お化けを信じていると言ったら、周囲は笑うかもしれない。だが、怖いものは怖い。

 階段を降りて、分かれ道もなく迷わずまっすぐ先へと進む。

 ぴちゃぴちゃ、どこからか水が滴っている。その水音がよく響き、不気味さを演出している。

 人一人分しか通れない細い道を暫く歩くと、前方に出口のゲートが見える。

そのゲートを潜れば、広い暗闇の空間がラルトを向かえる。

  「ここは地上では、どの辺になるのかな?」

 地上から夕暮れの光が薄っすら漏れていて、空間をところどころ赤く染めている。

 柱が何本も並んでいる空間を、ラルトは歩きながら地図を確認する。

確認したところによると、いつの間にか広場の真下に来たらしい。

 近くにあった柱に手をついて一周歩いていると、手に冷たい無機質な物体が触れた。

「ん、何だ?」

 手に触れたのは、長方形の無機質な塊に時計が何故かついている物であった。それが、この柱にくっついている。

 時計の針が規則正しく、チクタクと音を鳴らして進んでいる。

「こ、これは! 時限爆弾!?」

 この国では、テクノロジーが最大時期だった化学兵器は、少しの威力でも厳しく取り締まっている。

 それは、二度と人類汚点の世界大戦のような惨劇を起こさせないため、

この国自らが平和へと先導に立ち世界全体を導くためである。

 だから、この手の化学兵器を“禁忌のテクノロジー”とも呼んでいる。

  「普通では手に入らない代物では?」

 どうしようか? 

 ラルトは、処理の方法に困った。

 その時だった。ラルトの背後から何かが蠢いて、突進するかのように向かってきた気配がした。

 ラルトは素早く身をひる返して右に避け、次の攻撃に備えて格闘技の構え方をする。

「な、何だ? 熊? トラ? それとも、幽霊?」

「我が幽霊に見えたら、眼科お勧めするでアル」

 東洋系のイントネーションでしゃべりる生き物は、目を凝らせば東洋系の人間だと確認できた。  

「怪しい東洋人が我が国の軍の制服着ている……。も、もしや、アラビア国王の側近を刺した人間!?」

「ピンポーン、正解であるヨォ〜。

いや〜、アラビア国王刺したつもりが、人違いで側近を刺したなんて我もおっちょこちょいでアル」

 否定するかと思いきや素直に認める相手。  

「殺人未遂、並びに違法テクノロジー物輸入の現行犯にて、ご同行お願いしましょうかね?」

「それは、ごめんこうむるであるよ。我もビジネスで動いているわけで、牢屋に入りたくてやっているわけではないでアル」

 ラルトは深い溜息をつく。

 適当に地下を探索したら、どうやら物騒なことに巻き込まれそうだ。  

「ビジネスと言いましたが、何か不穏な事に手を貸している何でも屋だったりしないでしょうね?」

「それも、正解ー。詳しく言うと、何でも屋兼殺し屋でアル」

 ラルトの額に、冷や汗が一筋流れる。

 嫌に相手が素直だな、と思ったら……そういうことだったか。

  「僕の命は差し上げられないけど、ご了承いただけませんかね?」

「嫌でアルヨ」

 やっぱり。

 最悪な事が的中し、ラルトは背筋が凍りつく。今相手の返答で、地上に生きて戻れるか不明になったのだ。 

「冥土の土産に聞きたいのですが、その時限爆弾はどうしてあるのですか?」

 相手と自分の間を一定の距離を保つため、ジリジリと下がりつつ隙を狙う。

「聞いたところで、死ぬに変わりないネ」

「意地悪しないで、教えてくださいよ〜」

 ラルトはあくまで下手に出る。

 相手はおしゃべりな性格と自分の腕を過信している。下手に出れば、いくらでもしゃべりそうなタイプだと分析した。  

「しょうがないネェ〜。まぁ、どーせ、死ぬ運命だし」

 ラルトはほくそ笑んだ。  

「貴方は反王政派に加担してますね? 反王政派はこんな物爆発させて、何をやりたいのでしょうか?」

「そろそろネ」

 相手は腕時計をチラチラ見ながら、何か時間を待っているようだった。

 そして、カウントをする。

「3、2、1」



 ドッゴォォォォォォォォォ――



 業火が吹き荒れたような音が、遠くから響いてくる。

それと同時に、ラルトがいる空間が酷い地震が起こったかのように激しく揺れる。

横に縦に、シャッフルされて三半規管がおかしくなりそうだ。

 そんな、酷い地震の中で何が起こったか、なんて悠長なことを考えていられなかった。

 ラルトは、頭の中が糸が絡まったようにぐちゃぐちゃになりながら、ただ柱にしがみ付き立っているので精一杯だった。





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