重圧な沈黙が二人を包み込む。 ユタカは平然とした無表情で黙っている。 遠くから、夜鳴く虫が鈴の音のような音で鳴いている。 一匹が鳴いたと思ったら、その一匹に誘われるように何十匹の虫が合唱をするかの如く鳴く。 この沈黙が耐えられず、羅愛は気を紛らわせるために虫の鳴き声を数える。 「っつは、何とか言ってよ! この無反応男!」 耐え切れなくなって、羅愛から口を開く。 「いや、その前にさ。なんで、アタシは疑問系で言っているんだ。最悪」 羅愛は恥ずかしさに混乱をし、自分で自分を突っ込み頭を抱える。 「友として? 義理兄弟愛? それとも、部下として?」 「はぁ?」 ようやっと出てきた返事は、思ってもみない内容だった。 「どういう好きかによって、返答は変わってきますが」 言葉の捉え方は、人により様々の意味合いに捉えられると言う。 だが、よりによって人生一大告白で違う意味に捉えるヤツはいようか? 羅愛はがっくり肩を落とし、俯く。 「兄妹愛だよ。大好きだよ、兄さん」 「出来が悪い妹ほど可愛いと言うし世間の評価に微妙だ」 「それは、出来が悪い我が子ほど可愛いでしょう」 ユタカの微妙な間違いに羅愛がツッコミを入れる。 「あと、友達としても好きだよ?」 「悪友ほど、絆が深いというがな」 「何か悪いことしたっけ?」 「羅愛の悪企みに無理やり加担させられた」 「それは被害妄想だって」 ユタカだって嬉々として加担していたでしょう? という指摘は、話が長くなりそうで飲み込む。 「あとね、部下としても一番好きだな」 「自分ほど役に立つ人材は、世界広しと言えども自分しかいないでしょう」 「ナルシストめ!」 確かに、ユタカは有能で気が利く。だが、自分で有能だとは言う人間はいない。 「って、違うんだよ! 色々な好きを合わせて、ユタカを愛していると言いたかったのだ!」 これで、どうだ! と言わんばかりの勢いで言い。羅愛は少し息切れ気味になる。 今度こそ正確に伝わったらしく、ユタカは眼をぱちくりして羅愛を見つめた。そして、皮肉な表情に変わる。 「いつも自分のことを、姑のように煩いだの禿げだのと言っているのに?」 「根に持つタイプだな。そういう男は一般的に嫌われると言うが、アタシの場合は目をつぶってやろう」 「偉そうに」 綺麗な笑みでユタカは言う。 そんなユタカの表情が妖艶すぎて、羅愛は誘われている感覚に陥る。 「王だからね。心の広い王を目指しているためにも、少々アピールをしとかないと」 手を伸ばせば、触れられそうな距離。それは、触りたいという欲求が叶いそうな距離だ。 しかし、触ってしまえば、雪のように解けて消えてしまうような気がした。 ユタカの魅惑に当てられすぎた心の表れかもしれないし、まだ、その時ではないと無意識に判断したのかもしれない。 「まぁ、返事は急がないよ」 羅愛はベンチから腰を上げて立ち上がり、ユタカを見下ろす。 「これだけは言っとく。お前はアタシが命を懸けても守ってあげるよ。あ!」 途中まで決め台詞だったのに、途中で素っ頓狂な声を上げて片手で何やら計算しだす。 「国民も命を懸けて守って、国も命を懸けて守るでしょう? でも、ユタカも守らないといけないから……。むむっ、命が何個あっても足りないようで足りる?」 「二兎追う者は一兎も追えず」 「何?」 「滅びた東の島国のことわざです。貴方様の命は一つしかない貴重なものであるため、それを無駄使いなさらないように」 ユタカもベンチから腰を浮かし立ち上がると、羅愛の傍に寄る。 とても近い距離に、羅愛は胸が高鳴った。 そんな羅愛の心の状態なぞお構いなしに、ユタカは妖艶に微笑むと一言「失礼」と言って羅愛を抱きかかえた。 「な、何するんだ!?」 羅愛の悲鳴に似た否定を無視し、ユタカはこの場から距離を置きたいらしく遠くへと跳ぶ。 すると―― ゴォォォォォォォォォ―― 地獄の底から沸き起こる業火のような音が地面から沸き起こり、羅愛とユタカがいた場所が地割れする。 そうかと思うと、地割れした間から火柱が立ち上がる。通常ではあり得ない光景だった。 地下のエネルギーが自然の行いにより地上へと上る噴火にも似ているが、ここは噴火火口ではない。 「な、何だ?」 気づかなければ、火柱により一瞬で火達磨になっていだろう。 先ほどと同じ地獄の底から沸き起こる業火のような音が、遠くから聞こえた。 それと同時に、城下町の広場から悲痛な悲鳴が沸き起こる。
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