それだけではないらしい。羅愛とユタカを狙ったような火柱が発端となって、城下町の至る所で火柱が立ち上る気配がした。
城下町の方の空を見上げると、火柱により赤く明るくなっているのが見える。 「言ったでしょう? 貴方様を狙う輩がいると」 ユタカは抱きかかえていた羅愛をそっと下ろす。 「これで、アタシを狙うだと? 人工物だというのか?」 「じゃなければ、どういう説明がつきましょうか。まさか、噴火という現象でも? 失礼ですが、噴火という意味をご存知ですか? 噴火というものは」 真面目なヤツ程説明好き。そして、説明好きは説明が長くなる。 「噴火の現象くらいわかるよ!」 ユタカの台詞を切断する。 この非常事態に詳細な説明は要らない。というよりも、説明を受けなくとも噴火現象は理解できている。 よって、この不可解な噴火に似た現象は、信じたくはないが人工的な物であるとわかる。 「まぁ、クダクダ考えるのは後! 城下町の被害状況の確認とゲストの身の安全が先だよ」 「了解しました」 羅愛の指示にユタカは頷いて承諾する。 城下町の被害状況確認ならば、現在祭りの準備をしているラルトに無線で確認するのが早いと思った。 なので、羅愛は無線機を出して軽く振りラルトの無線に繋げる。 「ラルト、聞こえるか?」 数秒、耳を傾けて応答を待つ。 「おーい、ラルト君」 ラルトの応答の代わりに、電波が悪い時特有の音が耳に届く。 羅愛は首を傾げる。 「電波が悪いぞ」 「役人である者達が持つ無線機は、市民クラスの無線機より電波繋ぎがいい無線機を持っているはずですが」 「相当電波の悪い所に居るか、電波妨害か、無線機が壊れたか」 「無線機を落とした、という可能性もありますが」 「どっちにしろ、この状況だから心配だ」 同じ火柱が城下町に何本が突然沸き起これば、運が悪けりゃ巻き込まれる可能も考えられる。 もしかして、ラルトが巻き込まれたのではないか? という嫌な予想が羅愛の頭の中をよぎった。 「ラルトは大丈夫でしょう。まずは、隣国や諸国のゲストの方々を安全な所へ誘導させるのが先です」 「そうだね。ラルトは心配だが、優先を考えるとそうなるね」 可愛い部下の心配をすると、目の前が真っ暗になりそうになる。だが、王として何をすべきか? を考えると自然と答えは出てくる。 まず、国の威信にかけて、隣国や諸国からやってきた使者や重要人物達の身の安全が唯一先。 それから、城下町の被害状況と被害者の数の確認。 私情を挟むのは、全てが終わった後。 「あと、貴方様の身の安全も含まってます」 「何? 聞こえぬぞ?」 実際は、聞こえた。だが、羅愛は決めていた。 そのために、ユタカが自分自身の身を案ずる言葉を、右から左へと受け流している。 国のため国民のために命懸けの政策をする王になる。 王というものは結局、国と国民がいての王なのだ。国と国民を守ってこその王だと信じてやまないのだ。 そのためならば、命さえ捨ててもかまわない。 「ユタカ」 「はい」 「この馬鹿げた火祭りをした犯人を探し出せ」 羅愛の普段より低く唸るような命令に、ユタカは恭しく頭を下げて了解する。 「王としての最初の仕事だな」 最初の仕事は平和的な仕事を願っていたのだが……。 どうも、世の中は平和じゃない仕事を羅愛に突きつけたいらしい。
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