「うわ、無自覚? 昔からユタカにーは羅愛ねーちゃんに過保護だったのは、誰でもわかっていたのに」 ジャスの言葉に、ユタカを除いた一同が頷く。 「皆して俺で遊ぶな。俺は妹離れが出来てない兄ではない。ただ」 ユタカは、羅愛を眺めて呟いた。 「罪悪感がアイツにはある」 その呟きは、微かな声だった。 そのため、誰も今の呟きを聞けた者はいない。 聞き返してきた解を無視し、違う話題を振った。 「アイツの弱点を教えてやろうか?」 「え、最強伝説を持っている羅愛ねーちゃんにも弱点ってあるの?」 素っ頓狂な声を上げて、ジャスは目を丸くしていた。 「あら、ジャス。人間は神ではないの。どんな人間でも、弱点というものはありますよ」 「マリアねーちゃんお得意の神様と絡めた話?」 ジャスは嫌そうな顔をする。 マリアからは耳がタコができるほど、自分が信仰している神の話をされているからだ。それは、誰にも構わずである。 マリア以外は信仰心が薄いため、彼女の話は皆難しいと言っている。 「そうですよ。人間は神様みたいに万能ではないので、誰にでも弱点があるし悪しき心もあります。 様々な最強伝説を持っている羅愛さえも、弱点の一つや二つありますよ」 マリアは自慢げに人差し指を立てて言う。 「羅愛の弱点。すなわち、自分の命を軽視するということでしょう。 何でも単刀直入で、突っ込むことしか芸がない作戦ばかり。それでいて、危険が迫る仕事ほどでしゃばる」 ズラズラ羅愛の悪い所を語るマリアに、解が苦笑いをした。 「おいおい、羅愛はかなりの言われようだな。 お前らがライバル同士なのはわかるが、マリアは羅愛をそんなに嫌っているのかね?」 「あら? 信仰深い私に嫌いな人なんていませんことよ」 マリアの視線が宙を泳いでいるのを、ユタカは見逃さなかった。 「まぁ、お前らが仲が悪かろうと良かろうとどーでもいい。うまいもの食ってれば幸せだ」 解がまた食べ物を口に運んでいる。 「お前は黙って食っていてくれ」 ユタカは頭痛がしてきた。 「皆して、何をコソコソ話をしているのさ」 “賢者の石”の公開を終え、そそくさと注目されない場所へと引き下がってきた羅愛が話に割り込んできた。 「羅愛お姉様、”賢者の石”を近くで見せてくださいませ」 ティンクルが手を合わせ、懇願するように頼む。 「駄目だ。秘宝の価値が下っちゃう」 「ひどぉー。見せることで、価値が下るのですか?」 「だって、秘宝だもの。滅多に拝めないからありがたいんでしょう?」 羅愛はテーブルの上にある食べ物をつまむ。 一国の王であるのに行儀がなってないのを見て、ユタカはわざと咳をした。 「お堅いね〜。そういえば、祭りの準備はどうなったか気になるなぁ」 「私が確認いたしましょうか?」 申し出たのはセバンだ。 「駄目ですよ。アタシの管轄だから、アタシが様子を見に行くのが道理なのですから」 「「それこそ、駄目です!!」」 ユタカとセバンの声が偶然に合わさった。 それは見事に合わさったものだから、その場にいる者は全員目をぱちくりする。 「いつも申してますが、ご自分の立場を理解して行動してください」 「ユタカさんの言うとおり。王であることを公表した後は、王らしく振舞ってください」 羅愛が首をすくめて、溜息をつく。 「なんだか、二人とも血が繋がっているみたい。セバンの孫はティンクルじゃなくてユタカだったのかな?」 確かに、二人とも息が合ったように同じような事を羅愛に言っている。 「でもね、国民には公にされていないんだなぁ。残念でした〜」 「屁理屈言わないでください。 国民に公表されてなくても正式な王になったのですから、部下ができる仕事は完全に部下に任せればいいのです」 羅愛の屁理屈に、ユタカは勢いよく否定する。 「ユタカ熱くなっちゃってさ〜。別に仕事をするだけよ? 君が大好きなお仕事をするだけです。遊びに行くわけじゃない」 羅愛とユタカのやりとりを見て、マリアが笑って言う。 「羅愛、貴方って本当にお馬鹿さんね」 「人を馬鹿呼ばわりするとは、それが信仰深い人間の台詞か?」 羅愛の双眸が剃刀のように細くなり、マリアを鋭く睨む。 マリアは殺気を含んだ羅愛の睨みに怯まず、羅愛の右肩に右手を置く。 そして、羅愛だけ聞こえる音量でなにやら耳打ちをした。 「な、アタシをからかうなっ」 羅愛は耳打ちされた方の耳を押さえ、赤面する。 耳打ちされるだけで、くすぐったくなる体質というものも不便である。 しかし、羅愛の赤面は単なるくすぐったさからではなく、会話の内容から来るものであろう。
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