「ねーちゃん達二人して、何を話しているのさ?」

 怪訝そうな顔をして、ジャスが二人を見て言った。

「な、何でもない!」

 赤面し慌てて返事をする羅愛をは対照的に、マリアは意地悪い笑みを浮かべている。

『別に隠す話でもなかったのですが……。照れ屋さんなんだから」

「アタシで遊ぶな! マリア・テレアージ」

 先程の殺気よりも数倍する膨大な殺気が膨らんでマリアを襲う。だが、マリアは微笑んで平然と受け流すだけだ。

「猿は吠えてなさい」

「猿は吠えないし、アタシは猿じゃない!」

 羅愛の怒りが頂点に達した。左半身を引き愛刀に手をかける。

 その羅愛の動きを誰よりも早く察知できたユタカが、羅愛の背後に回り刀にかけている手を捻りあげた。

それから、捻りあげた手を羅愛の背中に回し決め技を取る。

「ユタカ、放せ」

「この場所で暴れる馬鹿がいますか! 空気を読んでください。 マリアも羅愛を挑発することを言うな」

 羅愛とマリアの小競り合いが生み出した異様な空気のせいで、会場にいる数人かは不思議な表情でこちらを伺っている。

 せっかくの晴れ舞台を自分で壊す奴がどこにいようか?

 ユタカの話を聞く二人ではない。まだ、二人の小競り合いは続いている。

「これだから、猿は」

「だーかーらー、猿言うな」

 二人の犬猿の仲であるやり取りは、ユタカを酷く疲れさせるものだった。

 疲れ果てているのが顔色に表れていたのだろう。セバンが気の毒そうな顔をして、ユタカの肩を叩いて申し出た。

「顔色が悪うございますよ。自室に戻り、少しお休みすることをお勧め致します。

後の事は、ここにいる者達で何とか致しますので心配しないでください」

 セバンの申し出に素直に従うことにしたいが、今日数年ぶりに会った人物に全てを任せるのも不安だ。

「大丈夫ですよ。わからないことがあれば、すぐユタカさんを呼びますから。

それに、暫くはこのパーティーが続くだけでしょう?」

「そうだな。順調に進めば大したことはない」

「それだけではないぞ」

 羅愛が横から口を挟む。

「夜祭の準備も見ておかないと」

「それは、ラルトに全面的に任せておけ」

 そう言った直後、ユタカの身体全体が一気に重力が増倍し圧し掛かったような感覚が起こる。それで、ぐらっとふらつく。

 どうやら、疲れていることを認めたため、押さえつけてきた疲れが一気に表へとあふれ出たらしい。

「ちょっと、ユタカし大丈夫なの!?」

「まぁ、大変! ユタカお兄様は栄養失調気味よ」

「騒ぐな。大丈夫だって」

 会場の和やかなっ空気を切断されるのはまずいと思ったユタカは、心配して騒ぎ出そうとする羅愛とティンクルをなだめる。

 そして、改めて自分の症状を自覚しだす。

 疲れが表に表れた後、眼帯で隠れている右目が疼き出している。

一つ身体に違和感を覚えると、溢れ出るように次々と違和感が出てきてはユタカを苦しめる。

 疲労も自己暗示で乗り越えてきたが、そろそろ限界が来ているらしい。

「本当に顔色が悪そうだぞ」

 瞳に憂いの色を帯びた羅愛に心配そうに言われる。

「羅愛さん、ユタカさんの側にいて面倒を見ていてあげてください」

「はーい。さぁ、行くぞ! ユタカ、アタシの心配をするならば、自分の心配をしてくれないかな」

 羅愛はセバンの指示に同意し、ユタカを引きずるような形で引っ張る。

「って、襟首掴んで引っ張らないでくださいって、苦しい」

 ユタカはなすがまま。それは、羅愛に襟首を掴み挙げられ、抵抗すると首が絞まるような具合になっているからだ。

 誰か止めてくれ! というような目で一同を見る。だが、非道にも誰もが見ぬフリをしている。

見ぬフリならまだいい。解とカイが笑いを堪えているらしいが堪えきれなく、ニヤニヤとだらしない顔をしている。

 ユタカにとって今の状態は屈辱的だ。だが、抵抗することもできない。

 観念し、羅愛に引きずられるように引っ張られることしか道はなさそうだ。 





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