「この度は、我が成人の儀にお越しいただき、誠にありがとうございます」

 その言葉に会場内の者達が注目する。

「遠路はるばるお越しくださいました近隣諸国の皆様のため、今日は特別に我が国の秘宝をお見せ致しましょう」

 ショーを始める前に観客の様子を伺う奇術師ごとく、羅愛は会場の者達の様子を伺い微笑みかける。

 そして、手品を始めるような手つきで、ポケットから布の小袋を出した。  

「昔々」

 羅愛は昔話を語るように、皆に語った。

「人類が犯した3回目の大きな戦争。それにより、世界に生き物がすめなくなりました。

その生き物が住めなくなった世界を、我が国の初代王が“賢者の石”の力を借りて生き物が住める世界にした、

という伝承をご存知ですよね?その伝承に出てくる代物"賢者の石"は、我が国の秘宝であり希望でもあります。

よって、秘宝は皆の目に晒されることは殆ど皆無でありました。だが―」

 黒いビロードの袋から少しずつ中身を取り出して行く。

 その様子を会場の全ての者達が固唾を呑んで見守る。

 いつの間にか、また空間が緊張した空気へと変わってる。それも、先ほどの第3遺言書開封の儀式よりも高まっているようだ。  

  「これが――」

 袋から取り出したものを右手で高々と上げた。"賢者の石"を慎重に持ち、全ての者達に見えるようにする。  

「これが、我が国の秘宝"賢者の石"です」

 人々の中から感嘆の声が聞こえてくる。

 それは、羅愛の右手の中で妖しい輝きを放っている"賢者の石"の魅力に当てられたからだろう。  

「これが"賢者の石"です。この輝きは、アタシが"賢者の石"に認められた証拠。

誰よりも王に相応しいとアタシを祝福してくれているのです」

 羅愛の空色の瞳が、「どうだ?」と言わんばかりの挑発的な瞳だった。

さぁ、アタシが王だ! 褒め称えろ! と言わんばかりの態度たった。

 会場が羅愛の独断場と化している中で、この会場にいる全ての人々とは違った反応を示す7人がいた。

 それはもちろん、ユタカとマリア、解、カイ、ジャス、ティンクル、それからセバンだったのだが。

「うそ……、あれが本物の"賢者の石"?」

 驚きのあまり目を見開いて口をパクパクさせているジャス。

 無理もない。先代の養子として寵愛を受けていた者達でも、実物を見たことがないのだから。  

「最初から決まっていたということかい?」

 カイはテーブルの上にあった料理をもぐもぐ食べながら、面白そうな表情で羅愛の行動を見ている。

「カイ……。お前、一人だけ緊張感なさすぎ。我が片割れながら、さすがというか鈍感というか」

 それを見兼ねた解がカイの行動を咎めたが、解の手にはグラスジョッキが握られている。  

「解。お前に言われたくないね。先程から、酒ばかり飲んでいたくせに」

「どっちもどっちでしょう? このような時に喧嘩するなど、アラビア国の品が落ちますよ」

 マリアが仲裁に入る。

 二人は不服そうな顔をしている。

これ以上騒がれてもめんどくさいだけなので、ユタカは話を逸らすためにも説明してやることにした。

「先代が崩御する前に考えたのだ。様々な最悪な事態に備えるためにな」

「ユタカお兄様と羅愛お姉様は、最初から私達を騙していたということ?」

 ティンクルが怒ったような顔をした。

「結果的にはそうなるな。国民全体を騙す作戦は、先代が面白がって考えた策だから。

俺や羅愛に不満をぶつけられても困る」

「あの方は深謀遠慮なところがございましたからね」

 そう付け加えたのはセバンだ。

 深謀遠慮――将来のことまでよく考え、計画を立てることの意だ。

先代の王は今日の内政混乱や重臣達の暴走が想像できていたということなのだろう。

 そのため、最悪な事態を避けるために計画を練り、それをユタカと羅愛に実行させていたのだろう。

「おかしい。最悪の事態に備えるためにですの? 羅愛お姉様は殺しても死なないような方なのに」

 羅愛の最強伝説を知っている者ならば、誰でも思うであろう。全うな発言をティンクルは言った。

「ティンクル、石橋を叩いて渡ることには越したことはありませんよ」

 セバンは孫の安易な考えを静かに指摘する。

「しかし、アイツが"賢者の石"を持っていることは初耳だな。いつ先代から譲り渡されたのだろう?」

「ユタカにも話さなかった秘密ということですね。羅愛も兄離れをしたということですよ。

ユタカもそろそろ妹離れをしては如何でしょうか?」

 マリアが皮肉たっぷり言う。

 ユタカは羅愛に保護者面していた自覚はあったが、それが妹離れができてない兄の心理と同じだとは思ってない。

 だから、マリアの言った事が理解に苦しみ首を傾げる。





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