広々とした豪華絢爛な部屋に、円卓のテーブルが感覚を保って多数並んでいる。

円卓のテーブルの上には、色鮮やかな多種類の料理がテーブルを飾り立てている。

 この部屋は城では一番広いが、今日の来賓者を収納するとなると手狭かもしれない。

それに、様々なスタッフが行き来し働くとしたら、なお更である。

 羅愛は部屋の空間を考えながら、近くのテーブルに手を伸ばす。お目当ての物を摘んで、口に放り込む。  

「うまっ」

 目立たない位置にあるテーブルに近づいてつまみ食いをしただけなのに、後ろから羅愛の行動を非難する鋭い声がした。

「つまみ食いしないでください!」

 羅愛は、煩そうに振り向いた。

「ユタカいたのか? 今まで何処に行っていたんだよ?」

 ユタカは先程無線機で羅愛に後の仕事を託したのち、暫く行方をくらましていた。

 一日中一緒というわけでもないので、何処に行っていようが勝手だ。

だが、今のユタカの顔色が死人のような色になっているので、羅愛は少し気になった。

 ユタカを上から下まで観察し、額に手を当てて首を捻る。

「お前顔色悪いぞ? 先程無線の声がおかしかったし……、風邪でもひいたかい?」

 手を払いのけられた。

「自分の心配より、貴方自身の心配をしてください。式典では貴方が主役なのですから、くれぐれも粗相のないように」

「わかっているよ」

 ユタカは辺りを見渡して、心配そうな表情で首を傾げた。

「立食パーティー式で本当によかったのでしょうか? 格式がないように見えますが……」

 心配性のユタカに対して、羅愛は深い溜息をついて肩を竦める。

「いいんだよ。久しぶりの諸国のお偉いさんが集まる場所なんだ。

情報交換したくて、様々な人間に話しかけたいヤツだっているだろう? 

それに、席の順番で揉め事が起きても面倒なだけだ」

 国が違うなら、文化も違う。

 座る順番が縁起悪い数だの、この方角に座るのはよろしくないだの、苦情を言われるのが羅愛には想像できた。

 席の順番で神経を使うのはめんどうなので、好きな場所へ移動できる立食パーティー式にしたのだ。

 様々な国の人々が集まる会場は、このように気を回さなければならない。

「夜祭りの準備は、今はラルトに任せてある」

「ラルトにですか……?」

「そうだが、何か都合が悪かったか?」

 ユタカの顔が曇ったが、羅愛に問われて首を振り感情の読めない何時も通りの顔に戻る。  

「何でもありません」

 ユタカの答えに、羅愛は納得できなかった。

 何でもないと本人は言うが、長い付き合いの羅愛からしてみれば何かがおかしいと、思ったからだ。

 そわそわしているというか、心ここに在らずな感じがする。

「わかった! 心配事があるんだな? 心配事を一人で抱え込むと禿げる。

アタシでよければ、相談に乗るぞ。さぁ、相談してみるがいい」

 胸を叩いていうが、ユタカに溜息をつかれる。

「あのですね……。心配事の原因を作っているのは、自分自身だということを自覚してくださいませんか?」

「心配性だなぁ〜。大丈夫、なんとかなるよ」

 笑いながら、ユタカの肩を3度叩く。

「貴方みたいな人を能天気と言うのですよね」

「前向きでプラス思考って言ってくれない?」

 険悪な空気が二人を包んだ時だった。

「見つけました。この儀式ギリギリまでわたくしを牢屋に閉じ込めるなんて、冷たいことではありませんか?」

 穏やかな女の声が聞こえてきた。  

「あぁ! ごめんごめん。アンタの事を忘れていたよ、マリア」

「だと思いまして、勝手ながら私が手続きをしてマリアを出しました。この儀式は、全員揃わなければいけませんのでね」

「本当は、わたくしを永遠に牢屋に閉じ込めたいのではないかしら?」

 マリアに睨まれて、羅愛は苦笑した。

「ねちっこいんだから〜」

「俺が忘れていなかったのだから、結果的に大丈夫だったじゃないか」

 羅愛以外の人に対しては、ユタカは口調が丁寧ではない。それは、マリアに対しても同様だった。

 だが、マリア本人は気にせず、あくまで丁寧な口調でユタカをとがめる。

「ユタカは、羅愛に甘すぎるのです」

「まぁまぁ。この料理美味しいから、これでも食べて落ち着かせてね。牢屋の飯はまずかっただろうに?

 口直しと行こうじゃないか」

 食べ物で釣るな! といわんばかりに、マリアに睨まれた。

「皆さん。楽しそうですね」

「あ、マリアねーちゃんだ。久しぶり〜」

「まぁ、マリアお姉様?」

 調理場の一大事を乗り越えた3人、セバン、ジャス、ティンクルが揃ってやってきた。

「この子誰ですの?」

 ティンクルがマリアに駆け寄ってきた時、マリアが当然の反応をした。

「ひ、酷いですわ」

「「本当にそいつ誰さ?」」

 他の国の来賓者よりも早く会場入りした解とカイが現れ、追い討ちをかけるかのように声を揃えて問うた。

「あーっと」

 羅愛は咳払いを一つする。

「こいつはな、ティンクルだ」

「「「「ティンクル!?」」」」

 知らなかった者一同が、声を揃えて驚く。

「何で、そんなに驚くのですの?」

 久しぶりに会った者達の反応が気に食わないらしく、ティンクルは頬を膨らませて拗ねる。

「当たり前だと思いますよ。元々貴方は男の子なのですから」

 不肖の孫であるティンクルの態度に、セバンの表情は疲れた色を滲ませている。

「全員揃ったな。じゃ、来賓者を会場に招いても大丈夫か」

 ユタカは腕時計を見て、頷く。

「丁度いい時間ではないですか」

 羅愛は無線機を取り出して、部下に来賓者を会場に案内するように命令を下した。





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