どうやら、この理由で納得してくれたようだ。

 満足そうにシャーハットは頷き、ユタカの顎から手をはずすと外んい目線を移す。

「これからの計画ですが、スムーズに事が運んでいるようですね」

「あの東洋人はよく働いてくれる」

「彼に暗殺してもらったほうが早くはないでしょうか?」

「長年一緒にいたお前が言うのか?」

 ユーロ国一番の剣使いと、実力がわからないが腕は確かだという噂の東洋人暗殺者――どちらが勝つか?

「どちらが勝つのか興味はありますが、まぁ五分五分でしょう」

 ユタカは自論を言い終えた時、シャーハットはユタカの方に目線を戻した。

「最近議会では、お前はよくアヤツの味方をしておるな」

「さて、何のことでしょう?」

 首を傾げて話を逸らす。

  「報告書の提出義務。皆の者は不満で爆発しそうな顔だったが」

「アラビア国王がいる場面で、あのような対処をしなければ国際問題になっておりましたよ――ふぐはっ」  

横腹に鈍痛を感じ、ユタカはうずくまった。

 シャーハットによって蹴られたのだ。どうやら、ご立腹の様子である。

   「お前は誰の味方だ? そんな態度は二度と許さん」

「……ッ……も、もうしわけ……ございま……せん」

 痛みで呼吸困難に陥りながらも、ユタカは何とか侘びの言葉を入れた。

  「わかればいい。だが、お前には教育が必要だな」

 シャーハットは残酷な笑みを浮かべ、ユタカの痛みで歪んだ顔を楽しげに観察している。

 どうやら、弱い立場の者を虐待するのが快楽であるらしい。  

「躾をしようじゃないか、上の服を脱ぎなさい」

 腰に下げている一本鞭を手に取り、手で弄びながらユタカに命令をする。

「……わかりました」

 屈辱的な命令だがユタカは顔色を変えずに受け入れた。ゆっくりと立ち上がり、自分が着ている制服の第一ボタンに手をかける。

 その時だった――



 ドガガァァァ――ン  



 城全体に響き渡る爆発音と、それに伴う地震のような揺れがこの空間を襲ってきた。

「な、何かね!?」

「ま、まさか……。そういえばこの日だから、ありうる」

「賊か?」

 うろたえるシャーハットを尻目に、ユタカは無線機を軽く振って羅愛へと繋げる。

 シャーハットと距離を自然にとり、会話を聞こえないようにする。

 やりとりの終わりに、深いため息をついてユタカは無線機を切った。

「賊ではありませんのでご心配なく」

「じゃ、あの音と振動は何かね?」

 ユタカは些細な出来事を報告するかのように、にっこり笑ってシャーハットに伝えた。

「料理人が料理を作っている最中に起きる爆発音ですよ。あぁ、貴方様はご存知ないでしょうね。

昔、城に天才料理人がいましてね。その料理人が料理を作るときに、必ずこういう爆発音が響き渡る現象が起りました。

その料理人が今日この日に城に戻ってきて、料理の腕を振るっている最中ということです」

「そ、そうなのか?」

「といっても、城が壊れそうな程の音でした。心配になりましたので、確認しに行ってもよろしいでしょうか?」

 呆気にとられているシャーハットを尻目に見て、ユタカは退出許可を申し出た。

「あぁ、行って見てきてくれ」

 ユタカは許可を聞くや否か、一礼して部屋を素早く退出した。

 部屋を出たユタカの表情は、淡々とした表情から安堵の表情へと移っている。

「はぁ、助かった。あれの料理の作り方は問題視されていたが、よいタイミングで作ってくれたものだな」

 忌々しい塔から素早く脱出するために、歩くスピードが自然と速まったことは言うまでもない。





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