「簡単ね、我が秘密のルートを使えば、ちょちょいのちょいだネ。 先ほど、各場所に配置完了したネ。しかし驚いたね〜、城のあちらこちらに秘密のルートがあるなんて、 これを知れば簡単に城を占拠できそうでアルヨ」 「だろうな」 「まぁ、我には関係ない話であるが、この国の乗っ取りに成功し政権を握ったら塞いだほうがよいでアルヨ」 「まーな」 リャンの指摘を曖昧に答えたとき、無線機から声が聞こえた。 それは、羅愛からだ。 来客全員を城へ招き入れる作業が終わったらしい。 その報告を聞くと、適当な理由をつけて残りの作業を羅愛に任し、シャーハットがいる場所へと向かうことにするのだった。 城の周囲には7つの塔がある。 本来ならば、塔は王の側近が控える場所だった。 だが、王がいない今は有効利用で、大臣達の部屋へと用途が移り変わっている。 ユタカはその一つ、もっとも東側に位置する塔へと足を運ぶ。 褐色色をした日干し煉瓦の塔は、跳ね橋で城の2階に連結されている。その下は、深い川のような堀である。 城の周囲は深い堀で囲まれており、中に水を絶えず流している。その水は城下町の川へと繋がっている。 人工的な川のようなものだ。 敵が攻めて来たときに便利らしいが、水不足が問題の国でなんという贅沢なことであろう。 「「お疲れ様です」」 跳ね橋を渡り終え、塔の中へと通じる扉が見えてきた。 扉の前に立っていたシャーハット直属の見張り番が、ユタカを見るや敬礼して挨拶をする。 「あぁ、シャーハット右大臣はいるか?」 いることは知っているが、儀礼的に聞いてみた。 「中へどうぞ」 見張り番の一人が扉を重たそうに開け、ユタカを中へと通す。 中は外の暑さを忘れさせるほど、とてもヒンヤリとしていた。 防衛上、塔の造りは最上階以外ない。そのため、日光が建物に入ることが少なく、建物全体がヒンヤリするのだ。 入って目の前に螺旋階段があり、ユタカは最上階を目指すために登っていく。 最上階に着くと、階段の直側に精緻な彫刻を彫られた芸術品のような大きな扉が現れた。 控えめなノックをする。 「ユタカ宰相だね?」 「はい」 「入りたまえ」 入室許可をもらい、ゆっくりと扉を開け部屋の中へと入る。 「早かったね」 「予定より早く終わりましたもので」 入って向かい側の壁に大きな窓があり、その窓辺にシャーハットは立って外を見ている。 外から目を離さず、シャーハットはユタカに話しかける。 「中央地区の兵はなかなかやりおる。 何とか国全体の軍の団結力を妨げるようにしたが、アヤツは中央地区の者だけでも使い物になるように鍛え抜いたらしいな」 「そうですね。いつの間に鍛えたのか、自分も今日の仕事の動きを見て驚きました」 「そなた、信用されておらぬな?」 ようやくユタカの方へ目線を移したシャーハットは、卑下するかのような目でユタカを見た。 そんな目線に臆することなく、ユタカは淡々とした態度でシャーハットに言う。 「さて、どうでしょうか? 軍の仕事はアイツが担当ですからね、ただ仕事一人で黙々と仕事をこなしただけでしょうね」 「お前は誰側についておる?」 ユタカよりも地位が低いシャーハットが、ユタカを“お前”と呼んだ。 それを咎めることをせず、ユタカはシャーハットに近づくと跪く。 その姿は、主従関係を意味している。 「もちろん、貴方様です」 「そうやって、あやつにも尻尾を振ったのか?」 ユタカは下を向く。 三日月型に歪んだ口元をシャーハットに見られないようにするために。 「さぁ? ただ私とアイツの関係は、上司と部下ということですよ。ちょっと、過保護すぎましたけどね」 「本当に次期王はアヤツなのか?」 「えぇ、疑うならば第3遺言書開封儀式でご自分の耳で聞けばいいことでしょう?」 挑発的にユタカは言う。 シャーハットは暫く考え込むと、ユタカの顎を掴んで強制的に上を向かせる。 「本当は何が望みだ? ワシ側について尽力をつくして、お前に何もいいこと等ないように思える」 シャーハットの疑い深い質問に、男性でもゾッとするような綺麗な笑みでこう呟く。 「成功した後の地位」 「欲深い。今のままでも、十分な地位じゃないのか」 「そうですがね」 間をおいた次の瞬間、ユタカの口からとんでもない言葉が出た。 「自分勝手な女に仕えるのも嫌になりました。たまに殺したくなるほど、ストレスが溜まるのです」 「そうか、苦労しているのだな」 「そうですね、ユーロ国一番の人使い荒い女ですからね」
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