会場が今まで以上ざわめく。 羅愛はざわめきを切り裂いて、解に聞こえるように言う。 「そんな、馬鹿なことがあるわけないじゃないか? それなら、アタシかユタカ宰相の耳にも入っているはず」 「そう言われましてもね?」 ユタカをまっすぐ見て、真剣な表情をして解は胸を張って懇願する。 「王代理のユタカ宰相に懇願する。水資源と水自給率をユタカ宰相自ら調べ、 2日後に表に現れる王に報告し共に対策してくれることを、アラビア国は願う」 「了解した、アラビア国王」 ユタカは立ち上がって、頭を下げて了解した。 「ということで、各自報告書を提出をお願いする」 全員が納得いかない様子だった。 「他に意見がある者は、いるか?」 他国の王に懇願され、意見を言える者はいない。 皆渋々と承諾せざるを得ない。 「なければ―」 「あ、ユタカ宰相! 前夜祭のことだが」 「羅愛軍師長」 羅愛は立ち上がる。 「今年の前夜祭も予定通り行う」 また、ざわめく。 「お言葉ですが、昨日の事件により前夜祭を行うのは危険すぎはしないかと―」 誰かが羅愛に言った。 「確かに、テロや暴動の危険性もある。だが、それらに屈する程、この国の警備は軟弱じゃないぞ?」 「こんな時に」 「こんな時だからこそだ。長年待ち続けてきた王がお目見えする前の日、 国民に楽しんでいただきたいと思うからこそやるのだ。アタシからはこれで終わりだ」 ユタカが会議を締めくくる。 「これにて、会議を終了する」 ユタカの一言で皆が立ち上がり、礼をする。 礼で会議を締めくくった後、会場内にいる者達はそそくさと部屋を出た。 会議の内容が納得がいかない大半の者達は、一同に不満げな顔で出て行く。 羅愛は、そんな者達を下等な生き物を見るかのような目で眺める。 誰も使えない、自分自身のことしか考えてない輩ばかりなのか。 国の腐敗を歴代の王達が見れば、嘆くだろう。 「……ぃ」 奴らを始末しなければ。 先代王が崩御し王が不在になったこの5年間、好き放題に国を動かしてくれた。 羅愛も我慢し泳がしていたが、大祭後は腐敗を取り除く手立てを考えなければならない。 もう、好き勝手にはさせるものか。 「羅愛!」 大声で自分の名前を呼ばれ我に返った同時に、両方のほっぺたを引っ張られた。 そのおかげで、意識は深い思考の世界から現実の世界へと戻ってこれた。 気付くと、いつの間にか屋は羅愛とユタカの二人だけになっていた。 「にゃひすぅる」 ユタカに両頬を引っ張られているせいで、しゃべり難い。 「ぶ細工な顔をしていると思いまして……。人間から猿に戻ってきてますよ?」 ユタカは笑いを堪えながら言い、羅愛の頬から手を離す。 「猿と言うなっ! アンタは性格が悪い方へ戻ってきているぞ」 ユタカを睨みつけ、とあることに気付いた。 「そういえば、解とカイはどこへ行った?」 昔この城に住んでいたこともあるため、道に迷ってあてがわれた部屋に戻れなくなると、いうことはないと思う。 だが、昨日暗殺者に狙われた事もあって心配だ。 「あの二人なら、会議終了後そうそうに出て行きましたよ。 会議終了後に、話しかけられたり付き纏われたりするのが嫌なんでしょう。今頃は、部屋で騒いでいるのではありませんか?」 「なら、いいのだが……」 「我々は、簡単には殺されないのではなかったのでは?」 「そうじゃなくて、あちらこちら物色されないか心配だ。 城の調理場に行って、つまみ食いしたり、女湯覗いたり、城に使えている自給女をナンパしたり……しかねん」 大変だ! と心の中で叫びながら、羅愛は走って城を巡回しようとした。だが、ユタカに襟首捕まえられ止められる。 「落ち着いてください。確かにカイの方が心配ですが、解がいるから大丈夫でしょう」 確かにそれもそうだと、落ち着きを払う。 解は頼りないが一応アラビア国の王だし、アラビア国の品格が下るようならばカイの暴走を止めるかもしれない。 「一体、貴方はカイを何だと思っているのですか」 溜息をつきながら聞かれたので、きっぱりと答えた。 「女好きのダラシナイ男だ」 自分の義理兄弟を愚弄するのもどうかと思うが、カイは異性交流に対してだらしがない。 過去の思い出を振り返れば、義理兄妹の中ではあの二人組が一番気苦労が耐えないような気がする。 「あー、疲れた。会議って戦闘するよりも疲れる! ただ広い空間の中で椅子に座るだけなのに、犯人側に人質がいて対応をどうしようか? と、頭を捻らすよりも疲れた。これは、何故なのだ?」
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