憎悪を含む目線、あざける目線、妬みを含む目線、煩わしいがっている目線…。

様々な負の目線が羅愛に向けられる。

 例外として、ユタカの誰にでも平等な冷静すぎて冷たいと思う目線と、

緊張が緩んできた後に起こる疲労で気だるそうな解の目線、

この場を楽しんでいるために愉快そうに羅愛を見るカイの目線である。その3人の目線が、唯一の救いであった。

「水の枯渇についてだが、水脈の研究と対策実行委員等私は改革案を進言したが、

その管轄はシャーハット右大臣に任せられている。シャーハット右大臣、枯渇対策はどこまで進んでおる?」

 羅愛に名指しで指摘された人物、羅愛の斜め前でユタカの隣に座っている男が挙手をした。

「シャーハット右大臣、発言を許す」

 シャーハットは、腰を擦りながら苦労して立ち上がる。温厚そうな50代後半の男だ。

「その件だがねぇ〜、実行したって急に結果が見えてくるものではないのだがねぇ。

これだから、若者は嫌だ嫌だ、結果を急がせるのだからねぇ〜」

「お言葉だが、あれから何年たっていると思っている? 1年半も任せていれば、政策の結果が見えないのは誰だって不審に思うわ」

―この狸ジジィ

 と暴言は心の中で、なんとか留めておけた。

「しかしだねぇ、水脈の地盤が固くて、人的作業じゃ掘り進めることは時間がかかることだからのう?」

「人手不足か? 水脈を掘り起す大規模な工事のために、人員は余す程やったはずだぞ」

 羅愛の問いに、生徒につまらない質問をされた教師が適当に答えるような態度で、シャーハット右大臣は説明を始めた。

「人手で掘るには固すぎて、作業スピードが遅くなる地層が出てきたんじゃ。

それを、無理やり作業スピードを上げろと言われても、事故になるだけじゃわい」

 そう説明を終え、あくびを一つ噛み殺した。そんな相手に、羅愛は鋭く睨んで聞いた。

「それならそうと、どうして早くに報告しなかったのか? 最低限、ユタカ宰相に報告するのが道理じゃないか」

「えーそうじゃなぁ……それもそうだが、それをソナタに言われる筋合いはないのう? 

ソナタは軍師長であり、この話は専門外じゃ」

 相手の言葉に、羅愛は腹が煮えた。

 シャーハットに、お前は専門外だから出てくるな! 

と遠まわしに言ったのだ。何たる態度、これが文官の位の中では宰相に続く2番目に位置する位の者の態度か? 

「それは聞き捨てならないぞ。本日の議題に関係あるから問いただしただけの相手に、

そのような態度で返答するのはいかがなものか? 

それとも、何か。問いただされて困ることでも起きたから、そのようにつっぱねるのか? シャーハット右大臣!」

「何をそんなに熱くなる必要がある? ただ、ソナタに問われれるよりも、ユタカ宰相に問われるのが道理と言ったまでであるが」

 羅愛とシャーハットはお互い睨みあう。

 見えざる火花が散っていることは、この場にいる全ての者が感じたに違いない。

「二人共止めないか! 愛軍師長、シャーハット右大臣、二人は着席を願う」

 ユタカの指示に、二人は素直に着席をした。

 会議を支配者は、王が表に表れるまで王代理なのだ。

 王代理に背く行為は、王に背く行為と同じである。少しでも背く行為を見せれば、周囲の信用は失うだろう。

「シャーハット右大臣、私も羅愛軍師長と同感だ。羅愛軍師長の指摘通り、

もっと早く報告してくれれば前時代の技術で解決できないか検討するものを」

 ユタカの申し出にシャーハットは、感謝の意を表して恭しくお辞儀をする。

「後で報告書を出すように」

「仰せのままに」

「各領地を治めている者達にも言う、各地の水資源状態の報告書を提示するように」

 その指示を聞いて、この会場が少しざわめいた。

「お言葉ですが」

 上座から3番目に座っている女性。

制服の上にさらに華美な装飾品を丁寧につけ、化粧がこの会場の女性では最高に派手な女性が挙手をした。

「何だ?」

 女性は立ち上がり、ユタカに堂々と意見を物申す。

「ユタカ宰相は、我らを信用してないのでしょうか? 

このような時期に報告書を提示を要求するのは、領土を守る地区を担当している官吏の恥でありますわ」

「くっ……は、はははは」

 女性の言葉に、解は盛大に笑った。

「な、なんですの?」

「いやいや、失礼しました。貴方様が報告書を提出を拒む態度を見て、とある噂の裏づけが取れました」

「失礼な、なんですの? その噂とは」

 解は立ち上がり、部屋全体をゆっくり見渡す。そして、もったいぶって話しだした。

「国内で水の取り合いが続くらしいですよ。しかも、枯渇していない地区にまでも。

水の資源がある場所は、井戸や川に私有地だと言い張り独り占めをして、水で稼ぐ人間が後を絶たないという話を聞きました」  





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