ユタカは冷ややかな目で、カイを見ている。 口元は笑っていて、目は笑っていなかった。 「ちょ、ユタカ! 何喧嘩しているのさ」 「喧嘩じゃありません、貴方も少しコイツに警戒してくださいって」 「大丈夫だって、俺は羅愛好みじゃないもん」 「それって、どういう意味だ? 返答次第じゃアタシが殺すぞ☆」 今度は羅愛が刀に手をかけている。 「ちょっと待った、待ったって! まったく、冗談も通じないな二人共」 「そこの3人、遊んでないで本題に入ったらどう?」 解はカードを一人片付けている。 羅愛は、資料を広いまとめてテーブルの上に軽く放り投げる。足を組み直し、先に話を振った。 「そうそう、ユタカも来たし本題に入るか。昨日の事件のことだが、詳しく事件状況を聞かせてくれない?」 カイは腹をさすりながら、口を開く。 「昨日夜に散歩して戻ってくる時に、城の裏門を通ったら東洋人に話しかけられたんだよね。そしたら、いきなり刃物でオレの腹をぐっさりだからね」 羅愛は腕を組んで考え込んだ。 犯人の東洋人に何か引っかかることがある。 「東洋人か……。何で、カイを刺したのだろうね?」 「オレを解と勘違いしたらしいよ?」 「アラビア国王を殺すつもりだったのが、間違えてそっくりなお前を刺してしまったということか。犯人は、相当おっちょこちょいらしい」 ユタカが苦笑する。 「同じ顔も大変だな。ご愁傷様だ」 羅愛はカイを労った。 「戦争でも起こさせる気かね〜。 アラビア国の王をユーロ国内で殺害されれば、アラビア国との長年の友好関係も終わるだろうしね」 「なんでだ? オレの奥さんが殺されればそうなるけど、オレは婿養子だから殺されても友好関係は終わらないだろうよ」 解は不思議そうに首を傾げる。 羅愛は、そんな解に子供でもわかりやすいように説明してやる。 「政治的には問題ないかもしれないが、解の奥さんはご立腹するでしょうに。 噂に聞くところ、奥さんはアンタにベタボレだって聞くぞ」 「あっそうか」 ポンッと手を打って、理解した表情を浮かべる解。 解が理解できたところで、話を本題に戻し進める。 「戦争まで行かなくても、国の友好関係は崩れる。外側からの混乱も狙いなのね。 ということは、犯人は大きな組織に属している、殺し屋か何かという予想がつくのだがね」 ユタカも頷き、羅愛に同意する。 「かもしれませんね。それが回避できたのは、カイが刺されてくれたおかげということでしょう。 カイ、お前でも役に立つときはあるのだな」 「ユタカ、オレに喧嘩売ってる?」 カイとユタカの間に火花が飛び散ろうとした。 「はいはい、二人とも状況読んでくだらない言い争いはしないの!」 羅愛が二人の間に入って、止めに入る。 ボォォォォンボォォォォン 部屋の古びた大時計が、低音で古びた鐘の音で時刻を告げる。 「そろそろ、会議のお時間です」 「そうだね、ところでカイは出れないか?」 羅愛はカイに懇願の目を向けた。 解は難しいことが苦手で、会議に一人で出ても話についていけるか心配だ。 婿養子で正式な王は解の奥さんなため、王の難しい職務は殆どしなくてもいい仕組みになっている。 とはいえ担を減らすためにも、奥さんは内政担当で解が外交担当と分担している。 外交も相当難しい事態に出くわすことがあるだろうが、そんな時はカイがサポートしているらしい。 「怪我は痛いけど死ぬほどでもないし、解が頼りないからオレも出る。 ただし、顔隠させてもらうよ。昨日の犯人は、誰かの下にいる暗殺者だろう? 後ろに黒幕がいるならば、その黒幕はもしかすると本日の会議に出席できる地位にいる人間かもしれないし」 「なるほど、今日会議に集まった全ての人間を観察してみましょう。 昨日殺したと思った本人が、何ともない顔で登場することで動揺するかもしれません」 「そうかな? そう簡単に動揺するかね?」 「少なくとも、アラビア国の王は不死身である、という印象を与えればいいのですよ。 そしたら、二度とアラビア国の王にちょっかいなんてかけないでしょう」 ユタカの口元が三日月形に歪む。 「不気味がって、二度と手を出さないでしょう。何回殺しても、死なないのですから」 「解、アンタの伝説がまた一つ増えるぞ〜。今度は、不死身な解ってね」 羅愛が面白がって言うと、解は頭を抱えて落胆する。顔は真っ青だ。 「止めてぇ〜、姫に殺されるぅ〜」 「姫って奥さん?」 「そう、アイツは噂を確かめようとする性質なんだよ」 解は嘆いた。 羅愛は、そんな解を他人事のように眺め、声をかける。 「まぁ、嫁さんに殺されてね?」 ユタカは解の怯えようがおかしいのか、先程から終始冷淡な笑みを浮かべている。 「この国のために、嫁さんに殺されそうになるのも本望でしょう?」 止めの一発のようにカイが続く。 「ファイト一発。姫に殺されよろしく〜」 解が他人事だと思っている3人を睨む。 「皆して酷い!」 機嫌を損ねた解は、テーブルの下に入って疼くまる。 「会議に出ないから、よろしく」 「うわー、子供くさい手段に出たぁー」 「アホらしい……」 それから会議が始まるまで、解にやる気を出させるために羅愛たちは悪戦苦闘したのである。
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