ポロリポロリ―― カイは腕に抱えている商売道具の弦楽器を意味も無く音を紡いでいた。 街全体を見渡せる、この街で唯一のとある宗教施設である鐘の真下にいて、故郷を眺めていた。 先ほどの酒盛りから打って変わって、ここは静かで闇に支配されている。 酒盛りはというと、羅愛が酔い潰れた時点で終了したのだ。羅愛抜きのメンバーで何を語ろうか? 野郎3人で酒を飲んで騒いでも楽しくはないと思っている。カイは、女と酒を飲むから楽しいのだと思っているからだ。 それに、ユタカが酔いつぶれた羅愛を抱き上げて寝室へと運んで行ったので、残ったのは兄弟二人だけということになる。 「自分と同じ顔と酒を飲んでもなぁ」 そりゃ、ナルシストではない限り面白くは無い。 という経緯で、酒盛りが終了した。その後、カイは散歩と言ってその辺をほっつき歩き、今ここにいるわけだ。 「何も変わってないんだな」 故郷は何も変わっていなかった。 唯一変わっていたものと云えば、雰囲気だろうか? この国は不安と混乱が渦を巻いいているど真ん中にいるような、一歩舵を間違えれば不安と混乱の渦に巻き込まれてしまうだろう。 「それは大変困る」 故郷愛からではなく、アラビア国の利益を考えた末に出た言葉だ。 アラビア国は海に面している小さな国でしかない、 そもそも、アラビア国の民は“アラブの海賊”と呼ばれる程、海と密接した関係を持っている。 第三次大戦後、元々住んでいた自分達の土地が、環境変化によって汚染と気温上昇のため住みにくい場所へと変化した。 そのため、造船の技術に優れている民は、海上の気候が住みやすく様々な地域を渡れるため暮らしやすいと考えた。 要するに、海上の上での遊牧民生活を選んだのだ。 たまに自分達の土地へと戻ってきたが、主な暮らし場所は海だった。 その彼らが、生活の糧のために船を拿捕しては全てを奪ってく生活をしていた。 そんな海の民が再び土地に移住するきっかけは、この国の第1代目の王が訪れたことだ。といわれている。 それ以来、密接な関係が続く両国は、共に支え合ってきているのだ。 「オレの夜を暖めてくれる女はいないかな〜♪」 ふっと浮かんだ心情を、適当なメロディーで適当に歌う。 「貴方みたいな軽薄な男に、ついていく女はいないと思いますよ?」 「隠れていたのかい?」 「いいえ。貴方が歌いだした時に辿り着いたのです」 カイの前から現れた青年は、人が良さそうな顔をした軍人であった。 軍の一員としては、あまりにもひ弱で突風が吹けば飛んでいってしまいそうな程。戦闘員としては頼りなさそうな印象を受ける。 「君が、マリア・テレアージの使いの人間? 小間使い君?」 「小間使いじゃないんだけどさ、僕はラルト・バードです。 レジスタンスの指揮内部の密偵として、今は羅愛軍師長直属の警備隊隊長をさせていただいています」 カイの前から現れた青年は、人が良さそうな顔をした軍人であった。 軍の一員としては、あまりにもひ弱で突風が吹けば飛んでいってしまいそうな程。戦闘員としては頼りなさそうな印象を受ける。 「君がね? 戦闘系よりも羅愛の小間使いの方が似合ってるぞ」 真面目そうな眼差しだが、先ほどまで少年であった面影を残しているほどの童顔っぷり。 「貴方は情報屋というよりも、遊び人の方が似合ってますよ」 負けず劣らずラルトは言い返した。 「うるせー。遊んでいるから、あっちこっちに情報を集められるんだよ。おこちゃまにはわからないだろーけど」 「遊びのついでと認めてくださいよ」 「君、年上を敬いなさいって」 「尊敬してない年上は駄目なんです」 二人の間に険悪なムードが漂う。 「いいもーん、君には何も教えないから」 カイが戦略なのか? 拗ねる方向へと移った。 「うわ。大人げない! 何で“伝説の子ら”と呼ばれている人間達って性格が変なのですか」 「なーに? 日々、羅愛やユタカ、マリアテレアージにいじめられているの?」 目の前の相手が知人達にいじられている想像をすると、これまた可笑しくて愉快すぎて滑稽だった。 それゆえ、カイは唇を意地悪く三日月型に歪める。 「いじめられてません! ですが、あの人たちは自分勝手すぎて大変です」 「よ、苦労人」 「えぇ、十分に苦労させられてます」 ラルトは長い嘆息を吐く。顔は眉間に皺が寄った苦労の色が濃い顔つきだ。 まるで、ユタカみたいな表情だな、とカイは苦笑する。 苦労人共通の顔はそんなのだ。 「いぢめるのはここまでにしてぇ〜。そういえば、マリア・テレアージはどうしているんだ? 今日ここに呼び出しといて、何故にレジスタンスの君が来る?」
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