「珍しいな。お前らって常にセットだったじゃないか?」

 解は肩をすくめた。

「常にセットってね。オレらだって別々に行動する時だってあるんだよ?」

「一緒だろうが、別々だろうが、どーでもいい。だが、くれぐれも騒ぎを起さないでくれ」

 昨日の二人が騒がした件を思い出したのだろうか? ユタカが心底疲れ果て額に手を当てて言う。

「なに。オレらってトラブルメーカー的存在だとユタカは思っているわけ?」

「自覚がないらしいから、はっきり言おう。お前らはトラブルメーカーだ。行いを謹んでもらおう」

 ユタカにトラブルメーカーという汚点を着せられた解は、膝を抱えて床にのの字を書く。

「ユタカのいじめっこ。オレらそんなに嫌いなの? いいもーんいいもーん、ユタカなんか嫌いだもーん」

 かなりの落ち込みようだ。

「ユタカ。弱い者いじめしちゃいけないんだよ?」

「弱い者いじめではありません。指摘をして差し上げたのですよ」

 ユタカは羅愛に対して解とは正反対の口調で丁寧に話す。

 解はその態度の接し方が違うことに不満を持っているか、反抗する。

「なんで、羅愛に対して丁寧んだ?」

 解を横目で見て、溜息をついて言う。

「馬鹿の耳に念仏、という言葉を知っているか?」

「それを言うなら、馬の耳に念仏だと思うぞ」

「ほぉー、馬鹿なのに知っていたか。今のは、解と馬の耳に念仏を掛け合わせた創作言葉だ」

 馬の耳に念仏――いくら説き聞かせても、何の効もないたとえ。

 要するに―― 

「馬鹿に丁寧に言っても、何の効もないから意味がない」

「何おう! ユタカはオレを馬鹿にするのか」

「実際、馬鹿力が何を言うんだ?」

 二人の間に険悪な空気が漂う。

 それを眺めて、羅愛は自分の存在が忘れ去られているような気がして頬を膨らませる。

「ちょっと二人とも、アタシの存在忘れて楽しく喧嘩しないでよね」

 その指摘に、ユタカと解が一斉に羅愛の方を振り向いて、凄い形相をして否定する。

「楽しくありませんよ」

「そうだそうだ、羅愛は何か勘違いをしていると思うけど?」

 凄い形相をし物凄い勢いで否定してくる二人を見て、仲いいじゃない? とは言えなかった。

 羅愛は二人が同じような反応をしてくるあたり、3回目の大きな戦争前時代に一躍ブームとなった古典物語、

猫とねずみのような仲の良さだと思った。

 あの一見仲が悪そうに見えて、実は仲が良いというあたりが。  

「ん? 誰かの無線機鳴っているぞ?」

 無機質な雑音が微かに聞こえたと思うと、とても遠い所から自分の方へと向かって話かけられたような音量の声がした。

「自分です」

 ユタカの無線機だった。

 ユタカは無線機を取ると、羅愛と解から離れて向こう側の相手とのやりとりを始める。

 こんな朝早くからの連絡だ。何かトラブル関係なのだろうか?

羅愛は内心ハラハラしながら、無線機で会話しているユタカの表情を読み取る。

すると、ユタカの顔色が徐徐に、いつもの病的な白さから尚更青白く変わっていく。

「ユタカ、どうしたんだ? 何か悪い知らせか?」

 ユタカの顔色を見た羅愛は、居た堪らない気持ちになり無線機の内容を尋ねる。

「カイが……」

 ユタカは無線機を口元から離す。そうして、今にも死ぬのではないか? と思う程悪い色の顔を羅愛に向ける。

 ユタカらしくもない。

 取り乱しはしないものの、顔色まではコントロールできなかったらしい。  

「落ち着け、カイがどうしたのだ?」

 冷血で鉄仮面等と噂されているユタカが顔色が悪くなるほど、無線機の内容が悪い知らせらしい。  

「刺されました」





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