「痛い、何するんだ」

「貴方が王としての自覚を持って行動をしていただけるなら、自分の心労は減りますがね」

「姑みたいに人の行動に口うるさいな。少しは寛容になったらどうだ? そっちの方が心労が減るぞ」

「減らず口叩く前に、貴方はどのような位置にいるか考えてください。ところで、そろそろ離れてくれませんか? 重いです」

「女の子に重いとはなんだ重いとは」

 羅愛は頬を膨らませて、ユタカから離れる。  

「羅愛様、自分が口煩く言うのは貴方が心配だからですよ」

 その言葉に羅愛は首を傾げ、双眸は不思議そうにユタカを捕らえた

「正式に王になれるかわからんのに、そんなにアタシのこと心配か?」

「何を弱気なことをおっしゃいますか」

「賢者の石に認められる前なのにか?」

 国の秘宝である“賢者の石”。

 王と側近の一部しか“賢者の石”をお目にかかれないところが、世間には“賢者の石”は伝説にしか過ぎないと公表している。

 伝説から、“賢者の石”を手に入れたものは万能になれる、と記述されているため、己の欲望から欲しがる輩が後を絶たない。

だから、“賢者の石”を守るために偽りの公表をしているのだ。

「皮肉だな。賢者の石は選ばれなければ使いこなせないし、王にもなれない。

国内でも国外でも賢者の石は喉から手が出る程欲しい人間が多数いるな。

それに付け加え、国内は賢者の石を手に入れれば王になれる。と安易に考えている輩が多すぎ」

 羅愛は大きく背伸びをして、行儀悪くテーブルの上に腰掛ける。

「得られないと分かっていても欲しくなる。人間の醜い本性の表れだね〜。

曰くつきの石というものは、賢者の石に相応しい言葉だと思わないか?」

ユタカは羅愛の足元の床に肩肘をついて、“主”を恭しく見上げた。

「そのような欲深き人間に狙われ、全ての人間に失望した初代王。そのような結末にならない人間がこの国の王に相応しい。

まさに、貴方様にぴったりでしょう」

「ユタカ、アタシを買いかぶりすぎだよ。アタシだって、人間に失望し続ければ人間嫌いになるかも?」

 ユタカは羅愛の方をじーっと見つめ、鼻で笑った。  

「それは、あり得ません」

「うわ、ムカついた。今、鼻で笑ったし」

 ユタカは立ち上がり、優しげな微笑を浮かべて羅愛の頭を撫ぜる。

 羅愛は、その子供扱いしているような態度に少々不満だった。だが、満更嫌でもない。なので、ユタカの行動を受け入れた。

「あれから、貴方様は命を捨てる覚悟をする程に、国民を愛してらっしゃる。

自分は心配です。貴方様が自分の命を、国民のために軽々しく捨てる道へと進むのではないかと。

先代王もその事に心底心配しておりました」

「知っているか? “死ぬ気で物事をなす”という言葉。命をかけなければ、守れない場合もあるのだ」

 剣術の師が言っていた言葉をふっと思い出す。

 剣術というものは、命をかけて大切な物を守り通すための手段である。そのために、剣術を学ぶのだ。

 というのが、師匠の言葉だった。

 羅愛の命をかける程の大切な物とは、国である国民である。

「それは部下を使えばいいことで、貴方は命を捨てる必要はありません」

「聞き捨てならないぞ。部下だって、国民の一人である。

アタシの大切な国民が命をかけて国を守っているときに、アタシが命をかけないでどうするのだ?」

 部屋全体に緊張した空気が流れる。同時に、重たい沈黙が包みこむ。しかし、この空気も長い間続かなかった。   



 バンッ――



 突然ドアが開く音が響き渡り、緊張した雰囲気と沈黙が糸が切れるように切断される。

「うわ、何二人で密会しているんだよぉ〜。オレ、一人で寂しかったじゃん」

 解がノックもせずに部屋に入ってきたのだ。

 ユタカは突然の進入に快く思わなく、眉間に皺を寄せながら解をねめつける。

「部屋に入るときはノックをする。という習慣がアラビア国ではないのか?」

「ユタカ、何機嫌悪いんだ? もしかして――、今いいところだったからか!?」

 いいところとはどんな所なのか? 解の話の意味がわからないで首を傾げる羅愛に、ユタカは溜息をつく。

「解の馬鹿話を真剣に考えなくてもいいですから」

「そうなのか? そういえば、カイはどこに行ったんだ?」

 いつも二人でいる解の片割れカイの姿が見えない。そういえば、先ほど一人で寂しかったと解が言っていた。どこに消えたのだ?

「散歩だったかな〜? さて、どこに行ったのやら」

 羅愛は目を丸くして驚いた。

 解とカイの双子は常に二人一緒という、典型的な双子イメージが強い。

そのため、二人がバラバラに行動するということが無いと思っていたからだ。  





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