カイが歌い終えたとき、羅愛は目をぱちくりして首をかしげた。

「え、これでお終い? その姫を助けた方法とか旅先の困難はどうなったんだ?」

 今の羅愛の表情は、お菓子をもらえるかと思って待ったのに、結局お預けを食らった子供のようだ。

「何で私達が知っている内容を重点に置き、知らないことをさっぱりとしか話さないんだ」

 カイは空の手を羅愛に広げて見せて翻した次の瞬間――キャンディーが出てきた。

「続きは、また今度ってことで。はい、これ」

 出てきたキャンディーをカイは羅愛に渡す。

「……アタシは紙芝居を見てきた子供か?」

 頬を膨らませて、渡されたキャンディーを舐めるのではなく“バリバリ”と音を立てて食べる羅愛。  

「そんな目をして、カイの吟遊を聞き入ってましたよ。子供と大差ないですよね」

 そんな羅愛に追い討ちをかけるようにユタカは言う。

「むむっ、子供じゃないやい! この世に酒が飲める子供はどこにいる!」

 と言い、ジョッキに手をかけて一気に麦酒を飲み干す。  

「飴と麦酒は合わん! やっぱり麦酒はしょっぱい系の食べ物が合うぞ。カイ、今度からアタシに食べ物を渡すときは

キャンディーじゃなくてスナック菓子がいい」

「ちゃっかり、リクエストしているし〜」

 笑いながら解が突っ込んだ。

「それにしても、カイは物真似の才能あるよね」

「確かに、前王達の口調や話し方が絶妙に似ていましたね」

「もっと褒めて? これがあるから、俺はアラビア国で一流の道芸師になれたんだよ」  

 羅愛とユタカの褒め言葉にカイは調子に乗る。

 解とカイは、先ほどの歌の内容通り姫を助けるためアラビア国に旅立った。

 助けた方法は不明だが、姫を無事に助け出した。その後、姫が解に一目惚れしたため、

解はアラビア国の婿養子としてアラビア国王となる。一方、カイは物真似の才能を活かし、道芸師として活躍することになる。   

 このようにして、王の下で養育されてきた子供7名は、それぞれ自分の道に進み各地に散っている。

 今、城に残っている者は、羅愛とユタカ2名である。

 しかし、時を経て大祭の前にその子供達が城へ集合している。

 王の最後の遺言書を知るために――





 昨日のことを考えても、いつベッドに入って寝たのかがわからない。  

「ん?」

 寝室の窓際にあるテーブルと椅子に目線を何気なく移したとき、羅愛は納得した。

 椅子に座り資料を読んでいる体制で、器用に寝ているユタカに気づいたからだ。  

「ユタカが運んだわけか」

 ベッドから出て、気配を押し殺して忍び足でユタカの傍に近寄る。  

「うわ、珍しい」

 彼の普段の睡眠は浅くいため、気配を押し殺して忍び足でも気づく。

だが、大祭前の忙しさと心労、それに加えて度の強い酒を飲んだ後の睡眠だ。

さすがに深い眠りの誘いには抵抗できなかったらしい。  

「相変わらず綺麗な顔だな」

 普段は絶対に見せないユタカの寝顔を十分に拝見し、羅愛は感嘆な溜息をつく。

その溜息は芸術品を見たときに、心から素晴らしいと感動したときの溜息に似ている。

 羅愛はユタカの綺麗な顔に対しては、どんな美しい芸術品にも勝ると思っている。

「天の賜物か? でも、性格は少し問題があるけどね」

 いつも見飽きているほど見ているのに、まだ見ていたくなる。

きっと、いつもは眉間に皺を寄せて不機嫌そうにしている表情から一変、

今は寝ているために眉間が皺を寄っていなく自然な表情になっているからだろう。

「うん、眉間に皺を寄せない方がいい。断然、美人度が落ちる」

「それは、貴方のせいです」

 返事等期待していなかった相手から返事が返ってきて、心臓が最高潮に高鳴りを放ち羅愛は後ろへとよろめく。

 そして、後ろに重心が傾きすぎて、転倒しかけるはめとなる。

「うわおっ!」

「危ないですね」

「うわわわわっ、ナイスキャッチ」

 羅愛は手首を掴まれユタカの方へと引き寄せられたことにより、後ろへの転倒を免れた。

 普通の女の子ならば、美青年に受け止められて赤面するのだ常だ。だが、羅愛が受け止められて感じたことは違った。

「アンタさやつれたんじゃないの? ちゃんと食べているか? 過労で倒れられても文句は受け付けないからな」

 ぎゅっと抱きつくと骨ばっていて、なおさら羅愛はユタカの健康を心配する。

 骨と皮になっている人を見るのは、先代王の死を思い出させるので嫌なのだ。それが、身近な人ならばなおさらだ。

 羅愛の頭がユタカの冷たい指で弾かれた。 





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