無線機を取り出して軽く振ると、ユタカ宛に繋がるように操作して口元近くに持ってくる。

「ユタカ、いる〜?」

 暫くして、ユタカの声が聞こえてきた。

『羅愛ですか?先ほどの音は、まさか貴方が−』

「なわけあるかい! もぅ、何でもかんでも私が絡んでいるって思わないでよ!」

 最初から疑われた。

「さっきの音聞いたね? あれは花火というモノの音だったよね」

『えぇ、こんな明るい内から花火を打ち上げている輩が信じられませんが、何か嵐が来そうで私は心配ですよ』

「嵐ね〜、嵐ならもう来ているけど」

 反乱寸前、大祭前の食中毒事件、人手不足、裏で糸を引いているかもしれない人物の存在等などそれらを考えると、

嵐の真ん中に突っ立っている気分だ。

『私が今考えている嵐は違いますよ、この花火を打ち上げた主を想像して言っているのです』

「もしかして、同じこと考えている?」

『えぇ、あの人たちが案内した通りの日付に来るわけがありません』

 お互いに花火の主犯の予測が一致したらしい。

「お騒がせなやつらだな〜」

『貴方に言われたくはないと思いますよ』

「うわ、失礼な!」

 騒がせたくて、騒がせてないのだ。

 ただ結末として、そうなってしまった出来事がいくつかあっただけだ。

それだけなのに、トラブルメーカー的扱いはどうなのだろう。

「おい、あれなんだ?」

「うわ、でかい!!」

 なんだか急に、城下町の門から城へ向かう大通りが騒がしい。

『城へ向かってくる団体がいるのですが―』

「今大通りが騒がしいのは、その連中のせいか? よし、アタシが見てこよう! というよりも、アタシがいる所は現場に近い」

『ちょっと待ってください、危ないですから』

 ユタカはとても過保護だ。

 大したことのない事でも、危険だからと羅愛を遠ざけようとする。

「危ないって何だ? もしあいつ等なら、迎えに行かないと失礼じゃないか」

『それもそうですが―』

「じゃーね」

 これ以上話していても埒明かないと考え、羅愛は強制的に会話を切る。

『あ、羅愛!?』

 有無言させずに無線機を切った羅愛は、大通りへと走っていく。

 一体そこに何があるのか? 

 人だかりの中に突入し、前方が見えずに苦労してつま先立ちして前を見ようとがんばってみた。

 すると、人の頭と頭の間に、灰色の大きな山がチラチラ見えるではないか。

「象?」

 なんとか前に出た羅愛は、目を見開いた。

 この国にはいない動物が、ゆったりと優雅に巨大を動かしている。

 像が先頭に三体縦に並び、続いてラクダや馬と一般的な動物が並ぶ行列は、パレードの行進のようである。

 象の上には、大きな日傘が設置され、その影に数人が座っている。

「解…?」

 見知った人間を遠すぎたがおぼろげに確認する。

 それは一番先頭に歩いている象で、その象は煌びやかな装飾品をこれでもか、というほど装着されており、

色鮮やか過ぎて目に毒という印象を与える。

 色彩の趣味は置いとき、この象の装飾品装着度合いから考え、一番位の高い人物が乗っているという意味を示すのだ。

何故ならば、他の象の装飾品は、先頭の象には派手さで負けている。

「すごーい、象さんだ!」

 すぐ近くにいる5歳くらいの男の子が興奮し、象に手を振っている。

「象さーん」

 とても微笑ましい光景だ。  

「これもっていて」  

 男の子は隣にいる同じ歳くらいの女の子に、お菓子袋を渡した。

「何するの?」

 女の子は軽く首を傾けて男の子に問う。

「象に触ってくるんだっ!」

「え、危ないよぉ〜」

「大丈夫!」

 羅愛は止めようと思った、万が一踏まれたら厄介だ。

 象は気性が荒い動物であるとは聞かないが、それでもこの見知らぬ土地に来た象にとっては、

疲れとストレスで少しの刺激でも驚き暴れる可能性もあるかもしれない。

「象さーん」

 手を振って走ろうとする子供を抑えようと手を伸ばす。だが、子供の予想できない動きに、手は宙を掴んだ。

「まずいっ」

 子供はそのまま象の足元に近寄って行く、そのときに小石に躓いてうつぶせに転ぶ。

 場所は運悪く、象の通り道だ。





 パォォォォォーンッ





「最悪だ」

 羅愛が考えていた最悪な結果が本当のことになる。

 暴れる象を何とか落ち着かせようと上で象を操っている人間の声さえも、もう象には届かない。

 羅愛は男の子を助けるべく、全身の筋肉をフルに活用して瞬速で走る。

 周囲のざわめき、最悪の結末をもはやしている人間の悲鳴、それらをシャットダウンして今は男の子を助けるべく集中する。

「大丈夫か?」





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