「ラルトの馬鹿真面目のせいで、お酒が飲めなかったじゃないか」 頬を膨らませて小声でぶつぶつラルトの恨みを吐く羅愛のオーラは、ドス黒かった。 久しぶりに会った大婆と酒を酌み交わそうとしたが、まじめなラルトによって任務中という理由で阻止されたのだ。 「いいもん。そういうラルト君には、めんどくさい調査を与えましたから」 ラルトにお返しといわんばかりの仕事を与えて、今羅愛はプラプラと市場《スーク》を見回りという名の散歩をしている最中。 市場は平和そのもので、一見して変わらない退屈な時間が続いていると見える。 だが、人々が注意深く景色を見ていると、人々が買い物を楽しむ声と喧騒、市場《スーク》のスパイスが多少強く鼻につく匂い、 市場《スーク》特有の雰囲気、全てが入り混じり融合して羅愛を楽しませてくれる。 そんな風景がまぶしく見えて、目を細めた。 「この風景が、いつまでも続けばいいな」 このような平和な風景を守るのも、王の務めだ。 ユタカがいつも、危険だから外にはなるべく出るな、と言っている。 しかし、直接的に外と接触しこの目で見なければ、国というものが単なる記号と化し曖昧になる。 曖昧なものをどうしてこの手で守りたいと思えるのだろうか? 到底、羅愛は守りたいと思えない。 羅愛は自分の手で守りたいと思うものは、些細なことでもいいから全てを知りたいと思っている。 貪欲なことだが、そうでもしなければ全力で守る気が起きない。命をかけて守ることができるわけがない。 「水は入らないかね? おいしい檸檬水はいらないかね?」 水売りは水が入った重たい樽を背負って、貴重な水を1滴も零さないように慎重に歩いている。 「そこの水売り、水一杯くれないかい?」 水売りに近寄ってきて、注文をした。 水売りの少女は人懐っこい笑みを浮かべて、羅愛を迎えた。 「まいど、普通の水と檸檬水、どちらがいい? 私的には、今日は暑いから檸檬水がオススメだよ」 暑いときには、すっぱい飲み物が流行だ。檸檬水はそれにうってつけであり、 シンプルで身体にもいい飲み物なので国民に喜ばれる飲み物である。 「じゃ、檸檬水を貰おうかな」 「わかったわ」 その場で少女は細い指先で檸檬を薄く輪切りにして、腰に何本の吊り下げられている木の水筒一つを外すと、 その中に切った檸檬を入れる。 「景気はどうだい?」 「城下町はまだマシね、水が公平に与えられているから」 作業を見ながら、羅愛は水売りの少女に何気ない話題を持ちかけながら、最近の状況を聞きだした。 「酷いところなんて、水税を上げている地区があると聞くわ。役人って、がめついね。 でも一方でいい役人もいると聞くわ、昨日かな? 笑いながら、お金をばら撒いている役人が現れたって話。 その現場に居合わせたかったな」 「はははっはっ、笑いながらお金をばら撒くね−…」 噂の広がりの早さに、羅愛は冷や汗をかくしかなかった。 市民の噂は早い、しかも噂がちょっと酷いイメージへと進んでいく。 市民は面白がってか? それとも、記憶のあやふやさからか? かなり変な方向にイメージが膨らんでいるからか? 「はい、檸檬水」 少女はにっこりと羅愛に檸檬水の水筒を差し出した。 「はい、代金」 「ありがとう、お姉さん」 少女は宝物を貰うかのように、大切にコインを受け取る。 羅愛は少女の頭をぽんっと撫でて、檸檬水を一口飲んだ。 生ぬるい水だが、ほんのり檸檬のすっぱみで冷たく感じ、すーっと身体に溶け込んでいく。 「美味い」 「私は商売に戻るね、じゃーね役人のお姉さん」 手を振って少女を見送り、また2、3口飲んだときだった― バンバンッバン 聞きなれない爆発音に、羅愛は水筒の中から何か音がでる仕組みなのか!? と真剣に考えた。 「んな、わけあるまい」 その音は遠く―もっともっと遠くから聞こえてきた。 「上? 上ぇ〜!? 花火の音!!?」 遥か昔小さい頃に一度見たあの花火の光景。その光景が、瞬間的に頭に過ぎって消えていく。 「花火だって!? ありえない」 この国では花火が禁止なのだ。 法律的に禁止はしていないが、暗黙のルールで禁止になっている。 前王が崩御して、今の王が成人になり正式に王座につくまで、その期間を喪に服す期間として控えるというルールになっている。 「花火のルールを知らない人間の仕業か」 別に処罰の対象にはならないが、これで国民が混乱しても困る。 「ユタカに相談するか……」
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