青の不思議屋さん-小説−











この国の城は、どこか異国を思い出させるデザインだ。

 離れた場所である男がその男の同僚と無線でやり取りをしているために、

リャンは少々手持ち無沙汰になったため、城のあちらこちらの建築デザインを眺めていた。

 まるで、観光気分だ。

 歴史上大きな戦争にも耐えられた街ということで、街並みは旧時代に建てられたビルティングを利用している。

だが、城の建築デザインだけは、西の地域文化の建築デザインと融合しているため、街並みに溶け込んでいない。 

 そういうのはありなのか? 和洋折衷ではあるまいし……。

 城のデザインを考えた人間は、趣味が悪い。

 リャンは、城の周囲に囲むように建てられている7つの塔に注目した。

 7つの塔は、王側近クラスの7人の勇士たちの控える部屋だった。だが、王不在の今は、大臣達の控え場所となっている。

「わかった、ラルトに?そう」

 城の建築見物を終え、また暇になったリャンは無線のやりとりをしている男を眺めた。

 声数少ない男であり、表情も何を考えているのかわからない寡黙な男だ。

 だから、男が今無線機で何を話しているのか? リャンには到底検討がつかない。

 右目が眼帯であるから、そのせいで尚更表情が読み取れなくなっているのかもしれない。

だが、今まで出会ってきた人間の誰よりも、気が無機質なのだ。

 気というのは、リャンの国で中国思想や中医学(漢方医学)などの用語である。

一般的に気は不可視であり、流動的で運動し、作用をおこすとされている。

しかし、気は凝固して可視的な物質となり、万物を構成する要素と定義する解釈もある。

 リャンは男をじっと見つめた。

 気を見ると、この男の気は例えるならば静かな水面のようなものだった。

「なんだ?」

 男が無線機のやりとりを終えたらしく、リャンの視線に気がついた。

「何でもないでアルヨ」

「そう」

 無線機をしまったついでに、男は懐から煙草の箱を取り出した。

 繊細そうな細い指先で煙草を一本取り出す動作は、洗練された美しい隙のない動作だとリャンは思った。

 リャンは人の動作を見ただけで、その人の強さのレベルを計ることができる。

そのリャンの目からは、相手はかなりの使い手であると推測している。

「どうぞであるヨ」

「あ、どーも」

「煙草なんて吸う顔してないであるが、真面目そうな顔した人間は裏で何やっているかわからないでアルヨぉ〜」

「俺の一服を、他人に文句言われたくはない」

 単なる話題つくりとして振った会話だが、つれない返事が返ってきた。

「彼女、貴方の裏の顔を知ったら、どういう顔するカ? ちょっと面白そうだネ」

 少し腹が立ったので、先ほどの無線機相手の話題を振ってやる。

 相手は冷たい刃物のような鋭い眼差しで、リャンを今にも殺さんばかりの殺気で睨みつけた。

「お〜、怖い怖い。貴方、怖すぎネ。それで、先ほどの連絡相手は彼女?」

「彼女じゃないし、お前この仕事に向かない性格だ。おしゃべりは、早死にするぞ」

「貴方偉い人違う、だから普通に会話している」

「あいつ等に俺を見張れ、と言われたか? 俺は寝返っても信用置けない人間だからな」

「我、昨日雇ってもらったばかりヨ。貴方と雇い主の関係はわからない、まぁ大丈夫?」

「何が、大丈夫? だ。疑問系になっているが」

 この男を見張れとも、情報を聞き出せとも言われていない。

 だが、リャンはこの男の情報を個人的に知りたかった。

この男の得体の知れないところが、魅力を感じてしまう。それゆえ、この男が本当は何を企んでいるのかを知りたかった。

 何故このような男が、この国に反旗を翻そうとしている輩の下にいるのか? 

 男の気の状態を見ている限り、男は出世して大成する気の持ち主なのだ。

 もしかして……、この男もこの国の頂点を夢見る一人なのか? 今はただ密かに息を潜めているだけなのか? 

「こういう場所じゃないと、吸えないんだ」  

 男は呟いた。

「彼女気遣って?」  

 先ほどの考えを振り払うかのように、リャンはあえて明るく茶化してみた。

「お前、しつこい」

 ギロリっと氷柱のような鋭い目を向けられ、リャンは肩を竦めた。

 男は吸い終わった煙草を銀製の携帯灰皿に入れると、もう一本煙草を取り出した。





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