青の不思議屋さん-小説−











「そういえば、今日の輸送班の人間が東洋系だったのう。

この国が、人種の坩堝だと表現されていても、東洋系は珍しい」

「お話、ありがとうございました。大婆」

「もう、いいのかい?」

「えぇ、ありがとうございました」

「いいよいいよ、お前さんは見込みがある若者だからのう。

困ったことがあれば、ワシができることがあれば助けるわい」

 大婆は羅愛を自分の孫を見る温かい目で見て、すっかり冷めたお茶を啜った。

丁度大切な話が終えた時に、配給女が羅愛とラルトのお茶と軽く食べれる物を持ってやってきた。  

「貴方、何処かで会ったことなかったかな?」

 配給女をじっと見て、羅愛は首を捻って彼女に尋ねる。  

「羅愛軍師長、どこかのナンパ人みたいなセリフ言わないでくだしさいよ」

「ナンパくさかった? ラルト君は真面目なんだから、ナンパの一つくらいしないと駄目よ〜。

で、貴方何処かで会わなかったかしら?」

 配給女はありふれた女で、別に人並み外れた特徴は持っていなかった。

 唯一特徴なのは、頬にそばかすがあるくらいだ。

夕暮れ色の赤茶を思い起こさせるツインテールの髪型は、幼く見えてしまう効果を持っている。

そのため、年齢が15歳程度しか見えない。

「怪しいおばちゃんかと思われてますよ」

「お、おばちゃんだって!? こう見えても、アタシは19歳だ!」

「彼女と比較すれば、おばちゃんです。ほら、彼女脅えているじゃないですか」

 見ず知らずの人間にいきなりナンパめいた言葉をかけられて、少女は脅えていると思った。

ラルトは少女に怖がらせないように微笑んで、謝った。

「ごめんね、仕事戻っていいよ」

 少女は頷いて、作業へと戻っていく。

「ラルト君が、幼少趣味だったとは」

 お返しだといわんばかりに羅愛に茶化されて、ラルトは顔を真っ赤にしながら否定した。

「違いますって、なんていうこと言うんですか」

「恋に年齢の壁はないと言うのう」

 羅愛に便乗して、大婆までからかい始める。

 似たような人間が気が合って仲良くなるのも、年齢の壁はないのだろう。

「そういえば羅愛、お前さんがこの間ワシに頼んできた品物ができたぞ」  

大婆が黒いビロードの布袋をテーブルの上に置く。

「あの設計で?」

「そうじゃ、お前さんがこれで何をするのかは聞かぬが、国のためになることだけは願っておるぞ」

「もちろんですとも」

   なんだ?その言葉の交わし方だけで、その黒いビロードの袋の中身が怪しいものであるような気がして、

ラルトは唾を飲み込んだ。

「なんじゃい? ラルトお前さんの今の顔、賄賂場面を偶然に覗き込んで後悔している人間の顔だよ」

 まさにそんな気分である。

 危険物(ラルトが勝手に決め付けたのだが)の賄賂を渡している場面を覗き込んでしまったのだから。

「お前さんはひ弱だのう、ちゃんと栄養は取っているのかね? 

ほら、このテーブルの物全て食べていいから、ひ弱から脱出しなさい」

「そーだそーだ、大婆の奢りだから遠慮なく食べていいんだぞ」

「はぁ」

 何やら、よからぬ予感がしてラルトはしょうがなかった。

「お酒持ってきて〜」

「ちょ、羅愛軍師長! 今昼間ですよ! それに、勤務時間ですって」

「何固いこと言っているのよ〜」

「そうじゃ、付き合いも大切じゃ」

 悪ノリしだした二人を、ラルトはこれから一人で押さえつけないといけなかった。





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