青の不思議屋さん-小説−











 城下町のスーク(市場)は今日も活気で溢れている。

 この国は貿易中継地点であるために、城下町は様々な国の珍しい品物で溢れかえっていて、それが活気溢れる象徴ともいえよう。

 伝統料理に欠かせない、胡椒、クミンシード、シナモン、粉末パプリカ等などの匂いがきついスパイスは、

仕事中の脳を刺激してくれる一種の気付薬みたいなものである。

そして、野菜・果物売り場では、色鮮やかな今の旬な品物が、目を鼻に刺激して、私が一番新鮮なのよ! 

と品定めする人々を誘惑する。

 行きかう人々を足止めしようと、躍起に呼び込む人々の声。値段を交渉し、少しでもお得になるようにと催促する声。

そして、人々が談笑する声。

 美味しそうな匂いに誘われると、簡単に食事が出来る屋台が立ち並んでいる。

 目、鼻、耳、口、触感の全ての五感を楽しませてくれるのが、この城下町のスーク(市場)だ。

この国で一番活気溢れる場所も、ここでしかないだろう。

「なんで、何時も一苦労しないと歩けないんだろう?」

 だが、ラルトにとってはスーク(市場)は苦手な場所だ。

 狭い路地にギュウギュウ詰め並んだ商店に、商品が入った箱や置いたテーブルを通り道にまで広げて置くので、

人が通れる幅が大人二人分という具合になっている。

 とても狭い道に、今日も真面目に巡回の任務を行うのだ。

「もう、暑いのに〜」

 昼食時は人で込み合う時間帯だ。

 この国は砂漠のど真ん中に建っているということで、唯でさえ暑い気温であるのに、

一人一人の熱気が放出しこのスーク(市場)を被っているような気がしてならない。

「あ―! ラルト発見!」

 空耳が聞こえた。

 暑い場所にいるためか、自分の頭の中が沸騰して空耳が聞こえたのだろう。

「ラルトくーん? 上司を無視するなんて礼儀知らずな奴だなぁ」

 ラルトは額に手を当てた。ほら、額も通常の温度より多少熱を持っている。

 飲み物でも買おうか?熱中症の症状が出始めた。そうでしかない!

「つーかまえたー」

「うわっ」

 ラルトの背後から、誰かが急にタックルしてきた。

「ツー……腰にくる」

「ラルト君、年寄りくさいこと言わない! 若者は若者らしくしなさいな」

 腰痛の原因の人物は、活発に笑った。

「あー、羅愛軍師長……何で貴方がいらっしゃるのです?」

 ラルトは嫌な顔を思いっきりした。

 昨日の一件で、羅愛はユタカ宰相の命により謹慎中のはずである。

「ま、まさか!? 脱走してきたのではないでしょうね?」

 脱走犯と一緒なんて、ユタカ宰相に見られたらお終いだ!

 加担したと思われたら、ラルトまで罰を受ける羽目になる。

 ラルトは不安になって、挙動不審にあちらこちらを見渡した。

 そんなラルトを面白そうに思ったのか、羅愛は声を上げて笑って言った。

「脱走してきたんじゃないわよー、ちょっと調査しに城から出てきたのよ。ちゃんと、ユタカの許可も貰ってます」

「そうですか……」

 なら、いいのだ。

「調査って何ですか?」

「大したことではないが、食堂で昼食食べたものが食中毒をおこしてね。重度なものだかちょっと怪しいと思ってさ」

 自分はなんて運がいいのだろう。

 巡回ついでに、外で軽食を取ってきたのだ。

「この暑い日々が続くから食材も自然に痛むでしょうけど、

毎日新鮮な食材を担当の食料品店で買い付けしているわけでしょうし、自然な要因って考えづらいと思うのよね」

 ラルトの耳元にそっと囁く。

「この時期だし、人為的なものなのかな?」

「なっ!?」

 囁かれた耳を塞ぎ、ラルトは顔を少し赤めて目をぱちくりした。

「これは、あくまでユタカとアタシの最悪の予想だけどね?

だから、私が調べに回っている最中なのよ。あくまでも、内密にね?」

 ラルトは首を縦に3度振った。

 そんな内密の事項をラルトに話してくれるということは、

自分は信頼してくれているのだろうか?それならば、とても光栄なことだ。

 ガジャガラガラガジャーン――

「な、なんだ?」

 豪快に物を壊した音がスーク(市場)に響き渡った。

「何事でしょう? もしかして、昼間から酔った客同士の喧嘩ですかね?」

 ラルトは自分が巡回パトロール隊の隊士長だということを忘れて、少しおじけついた。

実は昔、酔っ払った客に押し倒された挙句に、そのままあらぬ行為へ強制的にされそうになった一件以来、

酔っ払いは心底嫌いである。

「ラルト、市民の平和のために見てくるぞ」

「は、はい!」

 羅愛軍師長が行くのなら、部下が行かなくてどうするのだ! ラルトは奮い起こして、羅愛の後ろをついて行く。





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