ユーロ王国の国土は、砂漠全体である。 何故、砂漠という住みにくい場所に王国が設立したか―設立者であり初代王である賢者が、 旅をしながら世界の人々に生きる術を教えていた。そんな中、各地の欲深い人間が賢者を奪い合ったために、 嘆き悲しんだ賢者がお隠れになった場所がこの砂漠というわけである。 幾人かの気心の知れた友人と招かれた人々で村を作り、子孫が増えて村が町になり、町がやがて国となっていく― そのような自然な流れで創立された国である。 そうして創立された国が抱えている問題は、水不足や水の枯渇の問題だ。 水も限りある資源であり、永久に沸き起こることがありえない。 第三次世界大戦後の穢れた世界は、戦争のせいもあって環境が安定していない。 この地域はその影響が水にあるようだ。雨が不規則で、ようやっと降った雨は、 風向きのよって穢れた物質が入っている場合もあり、生活のために使う水にはできない。 それだけ、前時代の技術が破滅に導くものだったか― このような汚染が広がった世界に人が生きられるのは、初代王“賢者”の知識のおかげである。 世界中の人々が、ユーロ王国を崇高な眼差しで見る理由がその事だ。 他国でユーロ王国出身なのだと言えば、天使を見たかのような眼差しで拝み倒される滑稽な他国の人間の行動に、 腹を抱えて笑いたいのを我慢しなければならい。 この国や国民だって、普通の人間でしかないのに。 栄えあれば滅びの兆候だってあり、今のこの国は滅びの兆候に直撃している。 前の王が崩御されてから、今の王が成人の日までの期間が長すぎて、 国民の不満が積もりに積もっているのを羅愛は知っている。 これも、王が表舞台に顔を出せば国民を安心させられるのだが、 この時期に乗じて不安分子をばら撒こうとしている反王制派もいる始末。 この国の緊張感が最高に高まっているのが事実である。 これから行くD−19地区という場所は、代7代王の時代に水の資源が枯渇したことで、 貧困地域へと落ちぶれることになった問題地区だ。 「水というのは恐ろしいものだ」 羅愛はダートトラックという、前時代の乗り物をアレンジしてこの時代に合わせたバイクを走らせながら、前方に目を凝らした。 遠くに小さな町が、蜃気楼の中から浮かび上がるように現れた。 スピードを上げて近づくと、日干し煉瓦で造られた簡素なアーチの門が見える。 門をくぐって、建物の間をすり抜けるように走らせ突き進めば、突き当たりに人で溢れ返る広場が見えてきた。 ここら一体の人口が全部広場に結集する様は、この区間の動力が中心に集まったような、 それとも蟻が甘いものに集まったようなそんな様子だ。 『だからであり― 我々の怒りは今最高潮に達しているのである!!』 木材で作られた高台が広場の中心にあり、そこからスピーカー演説をしている輩がいる。 『新国王はこの国の状態を見ておらず、ただ傍観するだけである!ここ数年水は法外な取引を され、金のない者は干からびて死ねという』 拳を上げて声を張り上げた演説者に、広場に集まった人々は同調し気持ちを高波のように押し寄せる。 「なーんかさ、それって王がサボっているようじゃない?一応仕事しているのにねー」 羅愛はエンジン音を大げさにふかすと、この騒がしい広い空間全体にも響くような声を張り上げ、観衆に言った。 「この広場にいる人々に告ぐ!アタシはユーロ王国軍師長 羅愛・イシュナータである! こんなところで不満ぶつけるなら、アタシに直接ぶつけてきなさいよ!!意気地無し!!!!」 『何!?国の犬だと!?』 役人嫌いの人間が役人を“国の犬”と侮辱する。その侮辱は、羅愛の気高さに怒りへ続く導火線の火をつける。 「誰か犬だ!誰か!!!今そこに行くから待ってなさいよ!」 バイクのスピードを上げて、羅愛は広場に突進した。 人が密集し、バイクによって轢かれたとしても今の羅愛には気にも留めない。 「轢かれたくなかったら、どきなさいよ!ほら、ボサッとしていると、大怪我しちゃうよぉぉぉぉぉ」 一応警告した、警告したのにどかないやつが悪いのだと言わんばかりに、 バイクのエンジンを爆音の如く響かせ、暴走族のようにスピードに乗って広間に突っ込んで行く。 「はいはい、羅愛様が通るよー♪」 モーゼが海を割って道を作ったエピゾートがあるが、羅愛の目の前に広がる光景はまさにそれだ。 人の海が割れて、羅愛のために道ができる。その光景に、羅愛は気分を良くし、 調子に乗って道をバイクでぶっ飛ばし走ると、広場の中央に聳え立つ高台の麓に着いた。 憎ったらしい相手に宣戦布告をするかのように、ビシッと人差し指を高台の相手に向けて言った。 「よいご身分だこと、あんたは上から自分の好き勝手な事を叫ぶしか、能がないのね。 そういうの、負け犬の遠吠え?東の島国の言葉であったけど、それに当てはまるのではないか?」 『貴様に何がわかるー!!』 「いやいや、スピーカーという前時代の人々が残してくれた便利な技術を使っているのに、 わざわざ叫ぶ必要もないじゃない?アタシがそっちに行く方が早いから叫ぶな。アンタちょっと待ってなさい!」 宣戦報告を言い終えると、羅愛はこれでもかっ!と言うほどのエンジンを吹かすと、 アクセル最大限にしバイクを走らせ高台へと突っ込んだ。 この光景に誰もが高台の粉砕をイメージしたが、その心配を余所にバイクは重力の関係を無視し、 梯子を道路に垂直に走らせた。手品か?イリュージョンか!?なんという、不可解な現象だ!! あっという間に羅愛は頂点へと到着した。 「ふっ、今日も我が愛車は絶好調」 「おいおいおいおいおい、それはあり得ないだろ!!」 「え?このバイクのこと?アタシの愛車の“天かける馬”という名がついている、 前時代の技術が搭載されているバイクなのだ。これぐらい出来て当たり前」 「「「いやいやいやいや、それはないだろ」」」 この場にいた数人かは否定した。 重力を無視して壁等垂直に走るバイクを今初めて見たものは、羅愛を除いて全員だった。 「あっそうか、田舎者は見たことない人いるのか。前時代のテクノロジーを復旧したものでも最高潮である “魔法レベル”に位置づけられている一品よ。その“魔法レベル”の中でも上級クラスに輝いているわね。 まぁ、使い方が難しいという評価で、上級クラスなんだけど〜」 羅愛は、愛車を自慢げに説明する。 「なっ、魔法レベルだと!?」 「しかも、魔法レベルの中でも上級!!?」 「小娘が何でもっている!?」 驚くのも無理がない。 第三次世界大戦によって人間の文化レベルが低下したと同時に、テクノロジー技術レベルも低下したのだ。 国々は便利なテクノロジー技術が国力を向上させると見込み、テクノロジー復旧作業を国の威信にかけて行っている。 だが、失われた知識はそう簡単に取り戻せないまま―今の人々の技術理解は、 技術の最高潮の時期に追いつくのはいつになるだろうか? それに、万が一理解できたとしても、使用方が難易度になる物、燃料が手に入りにくい、 使用法が分かっても仕組みが分からない、という事柄により私生活に普及できないテクノロジーが多数ある。 テクノロジーにいは、難易度によってレベルを振り分けられている。 生活の中でも問題なく普及できるものを“一般レベル”、 国の技術者の補助なしでは使用でいないものを“公共的レベル”、技術者でしか扱えないレベルを“魔法レベル”という。 他にも。詳細にレベル分けがなされているが、なにぶん専門的言葉になるために、 市民には大抵この3つのレベルがあると理解されている。 「だから、アタシは軍師長だから持っているの!そこ、小娘とかいうんでない、失礼な」 「小娘、一人で何しに来た?」 「だーかーら、小娘ではないっ!!わからぬ、デブオヤジだな」 脂ぎり偉そうに踏ん反り返った中年男性、たぶんリーダーであろうオヤジが羅愛を睨みつける。 暫くの沈黙後、羅愛は高台から身を乗り出して、広場に集まっている人々へこう叫んだ。 「みーなーさーんっ、国からの補助金でぇーす!!これで、水でも美味いものでも買ってくださいねー!!!!!」 羅愛が高台から投げた物 それは― 「お、お金?」 「おい、お金が振ってくるぞ?」 「うっそ―」 「天からの恵みじゃー」 「ありがたやー」 お金だった。 この国の紙幣がパラパラと、雪のように降っている。そんな、光景に一同どよめく。 そして、降ってくるお金を必死に取る人々。 そんな人々を眺めながら、羅愛は深いため息をついた。 この国の民は疲労の末飢えている。 「あ、そこ取り合いしない!」 羅愛はまた札束をばら撒き、公平に人々に当たるようにしてやる。 それでも奪い合う様は、貧しく他人を思いやる気持ちの余裕をなくしている人間の姿だ。 この国をこのような浅ましい姿にしているのは、 王が表舞台に出られない期間を利用した腐敗し堕落した役人のせいかもしれない。 だが、あともう数日を越えれば光が見えてくるはずだ。 「このお金はアタシの貯金からなのよ、偉いでしょう?」 羅愛は振り返って、胸を張ってリーダーのオヤジに言う。 「だからさ、暴動止めてくれる?大祭前の5日間くらい仲良くしよーよね?折角のお祭りも台無しにしないでさ」 予想にもしなかった行動に、高台にいた人間はぽかーんっと口を開け、間抜けな顔で羅愛を見つめているだけだ。 今や暴動の集会所は羅愛の独壇場になってきている。 「ちょっとリーダー?貴方一体何しているわけ?」
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