教皇庁の奥には、美しい天使が住んでいる。

 天使は、客を微笑んで迎えると、何かを期待する目をした。

「ほらよ、今回の怪奇事件の報告書だ」

「ここは、禁煙ですからね。あと、第一ボタン外れています」

   どこを向いても一級品の家具、まばゆいばかりの色彩に囲まれた部屋は、

コーディアスには息苦しかった。おまけに、禁煙だときている。

「禁煙に不満ですか?貴方神父でしょ、欲に流されてどうするのです?」

   この部屋にふさわしい主の言動は、またもやコーディアスを息苦しくさせる。

「はいはい、あいにくですけど、俺は悪魔憑きの神父なもんですからね」

「今回も死ねませんでした?」

   深い彫りの顔に、陶器のような白さ、白銀の髪と瞳。

どこを見ても完璧な外見の人物の口からは、他人を容赦なく切り刻む言葉を放つ。

「報告書は、どこも俺が死んだとは書いてないのだけど?」

「事件の後、暗い顔して帰ってくる時は、貴方が死んだときでしょう」

「ふん」

「貴方はわかりやすいのですよ」

「そーですか」  

 投げやりな返事をして、コーディアスは部屋の中央にあるソファーに腰掛けた。

「本当に黒十字信仰を追えば、俺の探し物に会えるんだろうな?」

「えぇ、貴方をそんな体にしたのは、黒十字信仰でしょ?何かしら見つかりますよ」

「あっそ」

「私の発言信じてませんね」

「信じられるかよ、昔から天使と悪魔は相成れないって言うだろ?」  

 天使のような純白な神父は、悪魔のような黒き神父に満面な笑みで言う。

「奇跡の神父として予言します。黒十字信仰を追えば、貴方を化け物にした相手に会えます」

「…」

「信じてくださいよ」

 信じるも何も、奇跡の予言をするという評判の神父の発言だ。何かしら接点がつかめるだろう。

 遠い昔に、とある事件で黒十字信仰に関わってしまった。

そのことで、闇の女神に微笑まれてしまった、この忌まわしい体を元に戻す方法は黒十字信仰の中核にあるのだろう。

「ところで、次の任務ですが―」

「あぁ…」

 コーディアスは思う、神も悪魔も然程変わらない。

人間に干渉しようとしている時点か、それとも、人間をゲーム板で踊らせようとしているような時点で、変わらないのだ。

 それが、幸せか不幸せかは、人それぞれなのだ。

 だから、キリスト教に反する道に行くものは、それが幸せだと思ったからなのであろう。

 幸せとは人それぞれなのだから、宗教が躍起になって決めることではないと思うのだ。

 まぁ、それが周囲の迷惑にならない程度なら、幸せな方向に進めばいいのだろうけど。

「聞いています?」

「あ、タバコ吸いたい…ごふっ」

 ぼーっとして、問い詰められた答えが悪かった。コーディアスは、聖書の角で殴られた。



Fine