「敵を騙す前にまず味方から、という言葉がある。演技上手かっただろう?」

 羅愛はユタカを強く押し強制的に離れさせると、鋭く睨みつける。

「最低、そんなことして楽しかったのかい?」

 羅愛の問いに、ユタカは両手を軽く挙げて肩を竦めて答えた。

「機嫌直してくれ。先代が立てた計画は、俺は本当は反対だったんだ。

お前を危険な役目につかせるくらいなら、最初から俺が王だと名乗った方がマシだと思ったくらいだ」

 頬を膨らませながら、羅愛はユタカをじっと眺めた。

「で、どうしてシャーハット側にいたのさ」

「奴が怪しい動きをしていたのは、前々から解っていた事。

だから、奴に近づいて俺一人で解決するつもりだった。

お前をバルコニーから落下した夜にあのようなきつい言葉を言ったのは、お前を城から遠のけさせるための口実だった。

羅愛が賢者の石を持っていると奴は勘違いしていたから、お前が遠くに王らしく逃亡している間に俺が解決しようと思ったのに」

「なーんで、一人で何でも解決しようとするのかな? アタシって頼りない?」

 羅愛はユタカを問い詰めるように見つめる。

「命を無駄にするからな」

「だーかーら、そう簡単にくたばらない自身があるから命を賭けているのだ」

 羅愛は胸を張って、ビシッと人差し指を立てる。

「何か矛盾してないか?」

「矛盾はしてないと思うぞ。そんなに言うならば、アタシは何を証明すればいいのだ?」

 ユタカは腕を組んで考える。

「そうだな、お前を隠居しないで俺の側近として末永く使えるという誓いを立てればいい」

「えぇ、隠居しなくていいの? 本当?」  

 羅愛は嬉しくなって、ユタカの肩を掴んで揺さぶる。

 羅愛は替え玉として、偽りの王を演じ続けてきたために発生する掟。

 大祭日後の偽りの王の処遇。

 偽りの王は、偽りであっても一度権力を持った者は今後災いをもたらす種となる、と厄介なモノと見なされる。

 昔は"王殺し"と言って、厄介な偽りの王を殺して新たな王になるという儀式があったくらいだ。

 時代と共に悪習は廃れていったが、偽りの王となった者には国の片隅での隠居生活と決まっている。

「本当だから、揺さぶるのは止めろ」

「おっと、ごめん」

 ユタカの肩を放してやる。

「方法は一つ。ある剣を所持すること」

 それを聞いて、羅愛は真っ青になった。

「ま、まさか――国宝の一つ記憶する剣の所有者になれと? 責任重過ぎだわ」

「察しがいいじゃないか。俺はお前に持っていて欲しい。

持ち主と共に歴史を記憶する"記憶する剣"を――そして、俺のそばでどんな国になるか、見届けて欲しいのだ側近として」

 荷が重過ぎるような気がして、武者震いをしているのに羅愛は気付いた。

 それから、羅愛は思いかけない自分の処遇に開いた口が塞がらなかった。  

「あーっとえーっと、アタシで言いわけ?」

 記憶する剣所持。

それは王の側近として国に力を尽くすことであり、王を見守っていく役目であり、王を守って行く役目を担う者でもある。  

「お前に"記憶する剣"を与えたいと思っている。

この国を平和で豊かな国へといっそう発展していくために、俺に力を貸して欲しい」

 そんな替え玉以上の大役は、羅愛には無理だと情け無いが思った。だが、ユタカの切実な頼みに羅愛は断り難い。

 しかも、隠居せずに王であるユタカを側で守る唯一の方法である。

 様々な損得を考えれば、この話を受けざるを得ない。

「わ、わかったよ。受けるよ。じゃなくて、お受けいたしましょう。ユーロ国王ユタカ」

 羅愛は怪我でひざまつけない代わりに、深々と頭を下げて了承する。

  「ありがとう、羅愛」  

 ユタカに珍しく、素直な感謝の言葉が頭からふんわり振ってきた。

 羅愛が顔を上げユタカの視線が合った時、空高らかと花火が打ち上げられた音がする。

 この国の王が国民に姿を現すのは、あと1時間後のこと。  





○終わり○

   

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