「な、そういう仲じゃない!」

 全力で枕を投げつけたが、カイは当たる前にドアの向こう側へと消えた。

 枕はドアに当たり、ずるずると床へと落下していく。

「も〜、相手は王様よ! まったく不謹慎な」

「一昨日、告白してきたのは誰だ?」

 羅愛はユタカが枕を拾って投げつけられたので、受け止めた。

 顔が赤くなったのを自分でも感じた。  

「あ、あれは――ユタカが王様だと知らなかったし、無効だから安心して」

 告白したから恥ずかしいという思いではなく、知らなかったとはいえ王に告白してしまったことを恥らった。

 羅愛の人生設計では、王の伴侶になる予定はないのだ。

「何故?」

「どうでもいいでしょう? アタシの告白迷惑だったんでしょう?

 無効になって返事を返さなくて良くなったことを喜びなさい」

「そこまで言われると傷つく。一方的に無効になる理由を教えるのも、告白をした人間の責任なんじゃないのか?」

「あーもう、しつこいわね」  

 頭を掻きながら、自暴自棄になった。  

「アタシは王の后よかナイトになりたいんだ。守られるより守りたい。アタシはお前の盾であり剣でもありたいのだ」

「それが理由?」

 ユタカは首を傾げて、不思議そうに羅愛を見る。  

「そうだ。命を懸けてもお前と国と民を守りたいのだ」

「俺の気持も無視で?」

 羅愛がユタカを見た瞬間、驚いた。

 いつもの無表情なユタカが、怒っているが悲しそうな複雑な表情を思いっきり浮かべているのだ。

「お前が替え玉役になったとき、俺は父親をとても恨んだ。

お前が俺の言うことを無視し、自ら危険な場所へ首を突っ込み度に心臓が締め付けられる思いをした。

そうやって一人で背負って、自分自身の命を軽々しく扱う奴に守られても嬉しくない! 

俺がどんなに心配したかと思っている? なんで、お前はそうやって無鉄砲なんだ」

「無鉄砲だとっ!」

 羅愛は腹が立った。

 別に自分の志や行いを感謝してほしいとは思ってなかったが、複雑な思いを無鉄砲という言葉にまとめられたことが癇に障った。

 手に持っていた枕を思いっきり投げつける。

だが、ユタカは難なく受け止めてお返しと言わんばかりに全力で投げつけてきた。

また、投げる。受け止めて投げつける。暫くこれの繰り返しで、二人は枕投げに熱中する。

自分の気持をぶつけるように、相手の気持を受け止めるように――。

「いたたたたたたっ」

 何十分経過したのだろう?

 枕を受け止めた時、羅愛は手術の傷口が引きつるような痛みを覚え、ベッドの上にのた打ち回る。

 ユタカは素早く羅愛の元に駆けつけ、患者服の上をめくり挙げ手術後を確認する。

「どう?」

「何ともなってない。今腹で枕を受け止めたから響いたんじゃないのか?」

「アップルパイは食べられそう?」

「まだ、アップルパイの事頭から離れてなかったのか……。

野生並みの驚異的治癒だ。これなら、食べれるんじゃないのか?」

 ユタカは呆れながら、ついでだから聴診器で羅愛を診る。

「治癒するの早すぎだろう。野生児か?」

「何を言うんだい、健康児という言葉が当てはまるよ、いてっ」

 また、ユタカにデコピンをされた。本日で2回目だ。

「野生並みの治癒能力を持っていても、人間はいつか死ぬ。死んだ後を考えてくれ」

 羅愛は唸りながら考えた。

「あの世に行くのか? マリアが信仰している宗教ではどうたったかな?」

「あのなぁ〜、俺が言ったのはそういう意味じゃない」

「どういう意味だ?」

「残された者の悲しみを考えろ、と言いたかったのだが」

 羅愛ははっとなった。

 先代が崩御したときの悲しみを思い出したからだ。

「守る前に、俺を心臓麻痺で殺す気かっ」

 いきなりユタカが抱きしめてきた。  

「ふぎゅっ、苦しいよ。お前は、悪夢を見た子供みたいだな。アタシが簡単にくたばると思う? 

アタシ自身思ってないから、命を懸けて戦うと宣言できるのよ」

「あぁ、くたばると思っている。単刀直入という言葉しか知らない奴だから」

 ユタカの肩が震えていた。

 羅愛はこれ以上何も言わないであげ、ユタカの頭を撫でてやりながら大祭前の5日間を振り返った。

 そういえば、ユタカは大祭に近づくにつれ、更年期障害の女性のように気が張り詰めていた。

羅愛が独断で行動するほど、口うるさく注意をしていた時もあった。

 羅愛を偽者の王だと知らないから小言を言っているのだと思ったから、羅愛は偽者の王のために半分聞き流した。

この小言は本物の王にしてくれと。

 だが、違ったのだ。  

「あ、そうだ。アタシが偽りの王だと知って、あんな忠実な側近の演技をしていたわけ?」

   

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