「そういってくれると、先代も浮ばれる」

 そう言ったユタカの表情は、いつもの無表情だったが少し安心した顔だった。そうして、少し嬉しそうでもあった。

 ユタカは、ずっと悩んでいたのかもしれない。

 養子にされたのは自分の替え玉にされることだったのかと、皆に勘違いをされるかが不安だったのかもしれない。

「こんなくだらない事に、お前らを巻き込んですまないと思っている」

 らしくもなく、弱弱しく頭を下げるユタカに、羅愛はマリアから枕を奪い思いっきり投げてやった。

「いてっ、人が真面目に誤っている最中に」

「誰も巻き込まれたとは思ってないよなぁ〜、皆?」

 マリア、ティンクル、ジャス、解とカイを見渡して、同意を求める。

「そうだそうだ、好きで首突っ込んだだけだし。なぁ? カイ」

「そうだな、解。むしろ、楽しんでたし?」

「久しぶりに、爽快な気分でした」

「僕は、怖かったけど」

「ジャスも楽しんでいたでしょう。あ、ワタクシはもちろん好きで暴れてましたわ」

 それぞれの同意に、羅愛は頷いて背伸びをした。

「だからさ、湿った話は終わり。アタシ、お腹すいたけどアップルパイってお預けなの?

 大好物が目の前にあって、それが食べれない現在の状況がいたたまれないんだけど」

 そう言うと、枕が思いっきり飛んできた。

「わぶっ」

「食い地は人の何倍もあるんだなっ! まったく、疲れる奴だ」

 枕が顔――特に鼻が強く当たったせいで、鼻がジンジンする。

 羅愛は鼻を擦りながら、ユタカの許可を取るのがめんどくさくなりアップルパイへと手を伸ばす。  

「待て、今診てやるから。疲れる上にせっかちだ」

 ユタカは聴診器を取り出す。

「アップルパイが食べられるなら、せっかちでもいいよーだ」

 羅愛は舌を出す。アップルパイの皿の端に置いてあるナイフを手に取り、アップルパイを切り分けていく。

 アップルパイは切るたびに、サクサクと音を立てリンゴの匂いを放出する。

 あぁ、この瞬間がいいのだ。  

「羅愛ねーちゃん、駄目だよ。医者であるユタカにーの許可が出ないと食べられないよ」

 ナイフをジャスに奪われた。それでもって、アップルパイも皿ごと奪ってバスケットの中へと戻される。  

「アタシのアップルパイがぁ〜」

「治ってから、いくらでも作ってあげるからね?」

 ジャスがすまなそうな表情で、羅愛の頭を撫ぜる。  

「10個」

「え、何?」

「治ったら、アップルパイ10個作ってよ。もちろん、ワンホールが10個の意味だ」

 突拍子のないリクエストに、ジャスは苦笑して頷く。

「わ、わかったよ。じゃあ、まずはユタカにーの診察を大人しく受けないとね?」

「必ずだからな!」

 アップルパイワンホール10個が目の前にある想像をすると、羅愛は不思議とお腹がいっぱいになってきた。

 満足そうにジャスを見て、指きりをさせる。  

「アップルパイばっかり食べていると、太るぞ」

 ユタカが意地悪く言う。

「運動するからいいよ。それより、診察早くしてよね。痛くしないでよ」

 ユタカは投げやりな返事をすると、他の部外者は出ろとしっしと手で追い払う合図をする。

「あ、ちょっと待ち。最後に一ついいか?」

 と、カイが思い出したように言う。

「何で先代王は、お前を隠さずにわざと王代理なんてさせたんだろうね? 

それなら、最初からお前が今回の羅愛の立場に立って、羅愛が王代理していたほうが安全じゃねーの?」

「上官たちに目を付けられていたからな。

確実に自分は王ではないという位置に立って、無害であることをアピールしなければならなかった。

王代理の方が、国の動向を知れる上に何か出来事が起きた場合に即座に指示できるという理由もある。

ようは、安全な場所に隠れていたくはなかったんだ」

 どこかで聞いたことがある台詞に、羅愛は顔を上げた。

 ユタカは羅愛だけに聞こえる声で言う。

「どこかの誰かさんと同じ理由だな」

 質問を終えると、全員を見渡す。誰も何も言わなかった。

 聞きたいことは山ほどあるだろうが、大方の事は聞いたため後はそれぞれ想像を働かせて自分で納得しているのかもしれない。

 もしかしたら、また後で羅愛は質問責めにされるかもしれない。それを考えると、少しうんざりしてきた。

 逃げたくてもこの状態では動けるわけもなく、質問責めの良い標的だ。

「なければ、解散だ。お前らがいると、コイツはいつまでたっても治らん」

 ユタカが手でしっしと出て行けと言わんばかりの動作をすると、

ジャスとティンクルはブツブツ文句は言ったが皆大人しく出て行く。

 煩い人たちなのに、何故静かにでていくのだ? と、羅愛は疑問に思った。

 カイが去り際に、「ごゆっくり〜」と、ニヤニヤしながら言った時、羅愛の顔が熱くなる。

   

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