「先ほども言ったが、地下路を知っている人物はオレ含めて7人。

この7人というのは、“伝説の子ら”の7人だぞ。オレはお前以外には他人に情報を漏らしてはいないから、

今の段階ではお前含めて8人しか知らない。その国の秘密を誰か知りえるというのだ?」

「そうですよねぇ〜。誰かが裏切ったというならば、別ですけど?」

「誰も裏切らないよ。“伝説の子ら”は全員が先代に借りがあるんだ」

   “伝説の子ら”は元々は薄汚い落ちぶれた子供達だった。

 そんな彼らを受け止めて親のように愛してくれた先代の王。国を裏切ることは、先代の王を裏切ることに繋がる。

 親不孝のようなことをする者は誰一人としていない、とカイは思っている。いや、思いたい。  

「僕がこれを悪用すれば、貴方が悪者になりますよね?」

「お前、悪用できるの? 先ほど、違法になることに関わりたくない、って叫んでいたクセに」

「悪政になり民が苦しんでいる時期になれば、国に謀反は起こす勇気はあります!」

「お前って、真面目なのか臆病なのか勇気があるのか、まったくわからない」

 カイはラルトの肩を叩き、激励する。

「若者よ、その時になったら良い活躍を期待している。歌にすれば、商売繁盛できそうな活躍をな?」

「う、歌ですか?」

「オレの格好みてわからない? オレの表職業は旅芸人なんで、吟遊も歌いまーす」

 旅芸人の仮面をかぶり、衣装を全体的に見せ付けるように手を広げる。  

「あぁ、だから、ちゃらけているのですね」

「風来人、と言ってほしいね。じゃ、オレは帰るわ」

 手を振って、カイはその場を後にした。  





ポロリポロリ、カイの楽器の音だけが闇夜に響く。

 その曲は、悲しげな音程だがリズムが軽快でスピーディーで、奇妙で滑稽な曲だった。

 奇妙で滑稽な曲に合わせて、歌うように独り言を言う。   

「王はだれだ?だーれーだ? 1人目は、国一番の剣使い。2人目は、国一番の知恵を持ち。3人目は、国一番の慈悲深き者。

4人目は、国一番の力持ち。5人目は、国一番の残虐人。6人目は、国一番の気前がいい。7人目は、国一番の器用。

ってかさ、後半から適当じゃね? そんな奴に王やらせるのかよ」

 歌は次第に適当なリズムで、適当な音程で、適当な歌詞になる。

 歌を歌いながら、城の小さな裏門の門へと入っていく。

 この城の兵たちは平和ボケで、小さな荒れた裏門を真夜中にまで番兵しようという人がいないらしい、

昔からそうなのだから飽きれたものだ。

 だが、今は違った―

「お帰りですカ?」

 奇妙なイントネーションの喋り方をする奴が、後ろから現れてカイに話かけてきた。

「うわ、ビックリするじゃないか!」

 誰もいないと決めつけた場所に、忽然と姿を現されて話しかけられるというのは、

意外に心臓を高鳴らせる要因の1つであると実感した。

「スイマセンネ、我ちょっと急用」

「俺に?」

「そう」

 この国には珍しい、東国の民族の血筋をひいている男は、人のよさそうな笑みを浮かべてカイに近づく。

「貴方、アラビア国の王?」

「え―」

 ドスッ

 そんな大きな音ではなかったが、カイには大きな鈍い音が身体全体に響き渡ったかと思った。

「な……、なにっ……」

 喉の奥から、生温かく鉄と生臭い液体がこみ上げてきて、嘔吐を我慢しようと必死になったが無理だ。

「げほっがはっ……き、貴様、どこの、あ、暗殺者……だっ?」

 遅れて来た胸の激痛に、カイは片手で力を込めて押さえつけて堪えた。

「暗殺者が答えると思うでアルカ? じゃ、万が一生きていたら、また会いまショウ」

「に、逃がす……かっ!くっ」

「無理しない方が、アナタのタメ」

 目の前が霞んでくる、地面が踊っていて安定していないせいで、足がふらついている。

 捕まえようとしたが、すんなり避けられた。そのために、カイは地面へと転倒するはめになる。

「くそ……力がでね……」

 砂漠の国だというのに、寒気が襲ってきて身体が震えてくる始末。

 カイは最後の力を振り絞り、地面を這った。

 人気のいない所からの脱出、人気がいそうな場所へ行き見つけてもらうために――





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